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「マジ何で?」
「……てか、俺これでも仕事中なんだけど?」
ため息混じりで言われてじっと渋谷を見る。
すると、白衣の渋谷はポケットに手を入れて壁に凭れ掛かった。
渋谷医院の夕方、診察時間が終わったばかりの待ち合い室に人は居なくなったが、病室もある二階には入院患者も居て確かにまだ、と言われたら納得するしかない。だが、
「……わかったって……何?」
いざ聞いてくれる体勢なのを見ると悪い気もしてきて黙り込んだ。
「……なぁ、椎堂くん?」
呼ばれて顔を上げる。
「怜旺のことだろ?」
頷くと、渋谷は俺の横に座った。
「何?あいつのことは実に頼まれてるし、俺自身ももう後悔はしたくない」
その落ち着いた声に甘えて俺もゆっくり息を吐く。
「あいつがあのボロアパートを引っ越さない理由ってわかるか?」
「は?そんなもん怜旺に……って、怜旺が言わないから俺に聞いてるんだよな」
さすがにもう読まれていて俺は静かに頷いた。
「残念ながら俺も知らないよ。でも……あの怜旺があそこの住人の言うことは聞くんだよ」
「は?」
「どっちも足が悪くて今は階段は上れないみたいだけどな。相当世話になったみたいだぞ?」
世話に……呼ばれただけで急いで服を着て対応しに行ったあの後ろ姿を思い出す。
「あのじじいたちに会えばわかる……?」
立ち上がって自販機に向かう渋谷を見ながら呟いて、俺は密かに決意した。
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