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「獅子谷」
次の日、パソコン室に入って行くと獅子谷は呆れたようにため息を吐く。
その理由は久々に盛大な遅刻をしたからなんだが。
今は三時間目。
獅子谷がこの時間は授業が空きでここに居るとわかっていてこの時間に来たが、口にしたら怒られるのはわかりきっているためその理由は飲み込む。
「寝坊か?もういいから教室行け。ったく、遅刻したら……」
「あのじじいたちが離れ離れにならねぇようにあのアパートから出ないのか?」
キーボードを打つのも止めずに言われて、それを遮りつつむしろ獅子谷の隣に立った。
「あ?」
顔を上げた獅子谷はメガネを上げてこっちを見る。
「メガネとヒゲが離れず一緒に居られるように……」
「お前、元さんと勒さんに会ったのか?」
細められたその目を見て頷くと、獅子谷はメガネを外してため息を吐いた。
あの二人のじじいは元々同じ職場の上司と部下だったこと。
三十五歳になったメガネじじいに縁談が持ち上がって逃げるようにこの町に流れ着いたこと。
ここ最近は日雇いで食い繋いできたが、メガネじじいが倒れて今は家賃も払えずにいること。
あのアパートはもう取り壊し予定で、獅子谷が退去したら取り壊すことが決まったこと。
「あの二人にはずっと世話になってたんだよ。最期くらい二人で静かに居させてやりてぇだろ」
学校ではクールビューティーなんて言われているくせに実は義理人情に厚い獅子谷の隣に座ると、獅子谷はゆっくりこっちに凭れて身体を預けてきた。
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