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173、第21話「いや!!」

 土日の度に獅子谷のアパートに押しかけ、一度、「医者同伴!」なんて笑いながら渋谷の運転でピクニックだなんて似合わないこともしたが……メガネじじいはそれから半月もしないで死んだ。 「元さん」  あのヒゲじじいがピクリとも動かなくて獅子谷が支える。  通夜も葬式もない火葬だけで終わった最期の別れ。  一応、メガネじじいの弟には連絡をしたが、話も聞かずに切られて終わったらしい。 「元さんはどうすんの?」  獅子谷の問いかけに顔を上げたじじいはいつものヒゲもボサボサの髪もなくて、俺が驚くことになった。 「はぁっ!?」  短く切り揃えられた髪になくなったヒゲ。  白髪混じりではあるが、整った目元にいい感じに入った皺。 「こんなイケメン置いてくって後悔させてやんなきゃだろォ」  喋り方は確かにいつものじじいだが驚き過ぎて悔しいことに反応ができない。  じじいは腰を起こすと手に持っていたメガネを掛けた。 「それって」 「勒太のだ」  短く言ってじじいは布団はないが、いつもメガネじじいが座っていた場所を見つめる。 「八つ差なんて年取ったら屁でもねェって思ってたけどよォ……置いてくなよ……」  その目からまた涙がポロポロと零れていた。  俺と獅子谷は何も言えず、背中を擦っている獅子谷と目が合う。  一緒になれても離れる時が来るなんて……。  考えたらそうなのかもしれないが、こういう別れは想像もしていなかった。  俺たちは十歳差。 「レオくんとケー坊は……一緒に居ろよォ」  掠れたその声がやけに切なく響いた。

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