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 それからじじいの妹だと名乗る人物が現れたのは三日後。  金曜日にメガネじじいが死んで日曜日に火葬だったために俺も最期に顔を見ることはできたが、じじいがあのアパートを去ったのは獅子谷に聞いただけになった。  朝、「妹と地元に帰ることになったわァ。世話になったな!ケー坊にもよろしく伝えてくれやァ」なんて顔を出したと聞いて、学校終わりに寄ったらもう姿はなかったから。 「マジかよ……」  元々物はあまりなかったが、ガランとした室内。 「でも、勒さんの訃報を聞いた弟さんが失踪当時は連絡を取り合って探していた元さんの妹さんに連絡して今回元さんは妹さんと再会できたみたいだからな」  獅子谷も隣で空室になったその部屋を見つめる。 「寂しいか?」 「……そりゃな」  その肩を抱いて引き寄せると、獅子谷は素直に俺に少し凭れ掛かってきた。 「やけに素直じゃねぇか」 「元から俺は素直だよ」  見下ろすと、獅子谷もこっちを見上げてきてお互い顔を近づける。 「へぇ……」  笑いながら軽くその唇に触れると、獅子谷はフッと笑った。 「お前、何て面してんだよ」 「だって……」  手を伸ばして頬に触れられて俺は込み上げてくるものを堪える。なのに、 「ん?」  その顔がいつもより優しく見えて甘えてしまいたくなった。 「俺らは……十違うじゃん?」 「俺はまだ死なねぇよ」 「そうじゃなくて!……っ!?」  ギュッと鼻を抓まれて驚くが、獅子谷はケラケラと笑う。 「ついこの間まで殴り殺されてもおかしくねぇ生活だった奴が何言ってんだ」

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