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「は?……何で?」  思わず聞くと、獅子谷は俺の手を払って逃げる。  その腕を掴んでも獅子谷はこっちを見なかった。 「どうしたんだよ!」 「……」  もう一度聞いても獅子谷はこっちを見ない。 「獅子谷?」  むしろ、何でギュッと力を込めてそっちを向くのか。 「怜旺?」  再び後ろから抱き締めてその耳元で囁く。  ピクッと小さく跳ねたその耳にキスをして首筋にも軽くキスを落とすと、獅子谷はやっと少しだけ力を抜いた。 「何?」  そこでもう一度聞くと、ボソボソとよく聞き取れない返事が返ってくる。 「え?聞こえねぇ」  耳を寄せると、グイッとその耳を引っ張られた。 「だから!そんなん引っ越したらヤるみたいで恥ずかしいだろーがっ!」 「…………は?」  キンと耳に痛みを感じて……でも、そんなことより信じられないような言葉を聞いた気がして。  いや、確かに聞いてニヤけてしまう。 「……意識してたんだ?」  フッと笑うとまた凄い勢いで顔を背けた獅子谷。  抱き寄せても獅子谷は必死でこっちは見ないように逃げた。 「怜旺」  首筋にキスをしながら呼んでも、 「うるさい」 「怜ー旺っ!」  耳に直接呼びかけてみても、 「黙れ!」  獅子谷は頑なにこっちを見ない。 「怜旺……こっち見て」  後ろからその頬を撫でて固定する。  そのまま前に移動すると、獅子谷はまたパッと俯いて隠れた。 「逃げんなよ」 「……んなの」 「キスもできねぇじゃん」  近づいて誘うと、獅子谷はチラッとこっちを向く。  甘いキスがやけに嬉しくて心地良かった。

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