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 土曜日の朝。 「起きろっ!」  ガコンとドアを開けたのは俺なのに簡単に開いたことに驚く。 「は?鍵は?」 「あー、壊れてんだよ」  気にした様子もなく呑気にあくびをしている獅子谷は何でもないことのように言うが、そんなの聞いてじっとなんてしていられなかった。  俺は靴を脱ぎ捨ててそのまま獅子谷の腕を掴むと、引き摺るように連れ出す。 「は!?あ、おいっ!ちょっと!!」 「いいから」 「よくねぇだろ!」  バタンと閉めただけのドア。  壊れているのなら閉めておけば十分のはずだろう?  こんな不用心な場所にずっと居たなんて……置いておいた自分も許せない。  まだしっかり靴にも踵は収まっていない状態で俺はただその手を引いた。だが、 「さっむっ!」  震える獅子谷を見てさすがに悪いとは思う。  俺の上着を脱いで被せると、獅子谷は足を止めてこっちを見上げた。 「ちょっと落ち着け。ったく何なんだよ」  いつもよりかなり優しい言い方なのは俺があまりにも余裕がないからか。 「……物件決める。今日決まんなかったらもう俺ん家に来い」 「は?」  ぽかんと口を開けた獅子谷の両頬を手で包む。  頼み込むように眉を寄せて目で訴えかけると、獅子谷ははぁと深く息を吐いた。 「……なら、一回戻らせろ」  落ち着きのあるその声。 「え?何……」 「スマホも身分証も何も持ってねぇだろ」  耳が赤いのはもう突っ込まないでおく。  ただ、俺の色んな思いを理解して獅子谷が動いてくれたことが嬉しかった。

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