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 三つ目の内見を終えた獅子谷は明らかにグッタリとしていた。 「……大丈夫かよ」 「そー見えるか?」  見えないから聞いてる、とは言えない。 「今日は帰るか?」  頷く獅子谷の手を引いて担当してくれた男とは分かれる。  外で手を繋いでいるのに振り解かないほど疲れているらしい。  後で喚くのはわかっているが、そのまま気付かないフリをして歩いた。  電車に乗って俺に凭れながらかなり脱力している獅子谷の手を更に引く。  改札を出て見上げると、オレンジから薄い青に変化していく空。  消えそうなほど薄く伸びた雲。  糸のように細くて折れそうな月。  東から西へと歩いて行く間に空はどんどん色を変え、その表情を変化させた。  門を開けて玄関ドアに手を掛けた瞬間、ビクッとして顔を上げた獅子谷。 「えっ!?ここ……」 「俺ん家」  キョロキョロとして焦ったような獅子谷にさっさと告げて玄関の中へと押し込む。 「はぁっ!?」  すっ飛んだ声をあげた獅子谷は明らかに焦っていた。 「あんな防犯も何もないスッカスカの家に置いておけるかよ」 「バカ!お前ん家って!俺はお前の担任だぞっ!?親御さんに何て説明する気……」  鍵を締めると慌てて捲し立ててきたが、不意に声が絞られる。 「どっちも今日は居ねぇよ。何かのレセプションだとよ」  フッと笑って靴を脱ぐと、手招きをしてやった。 「だから、来いって」 「……」 「夕飯作るだけ。何、警戒してんの?」  ニヤりと笑ってやっても獅子谷は動かない。

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