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「来て。お願い」  両手を広げて訴えるように見つめると、獅子谷はキュッと唇を噛む。 「……本当に居ないのか?」  おずおずとした少し困ったような言い方。  キョロキョロと動くその目の落ち着かなさが愛おしい。 「あぁ」 「でも、暖房効いてるだろ?」  パッと上を見たりして暖房の出所を探す獅子谷を見て笑ってしまった。 「二十四時間空調でいつもこの温度だっつの」 「はぁ?何だそれ?」  まだこのまま続きそうで近付くとその手を引いてやる。 「ちょっ!靴!!」 「あがったらもう脱ぐだろ?」 「お前、めちゃくちゃだな!?」  喚く獅子谷の足元にしゃがんで手を出してやった。 「ほら、脱げば?」  見上げて笑うと、ピクッと眉を上げて獅子谷が 靴を脱ぐ。  俺は自分で靴を持って揃えるその後ろ姿を見つめた。  でも、やっぱり我慢ができなくて後ろから抱き寄せる。 「っ痛ぇ」  尻もちをついた獅子谷の項に唇を寄せてチュッと音を立てると、獅子谷はピクッと跳ねた。 「バカか!お前はっ!!」 「ん?」  バタバタと足を動かす獅子谷をしっかりと抱き締める。 「ん、じゃねぇわ!玄関だろ!ここはっ!」 「だから?」 「だから、じゃねぇ!」  かわいい、と言ったら怒るだろうか?  ずっと憧れの存在だった獅子谷がこんなにも愛おしくなるなんて不思議だ。 「ヤーベぇ……好き」 「本当、ヤベェな」  その真っ赤な耳にキスをすると、獅子谷はもう逃げなかった。

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