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「で?何がダメって?」  診察を終えた渋谷が来てくれて、待合室のソファーで待っていた俺は閉じていた目を開ける。そして、 「ケガ治るまで触んなって」  手を払われた数々を思い出して落ち込んだ。 「うーん……怜旺がかなり繊細なのはわかるだろ?」  頷くと、渋谷は隣に座ってネクタイを緩める。  そのまま伸びをするとフッと力を抜いて少し笑った。 「椎堂くんが目を覚まさない間の怜旺は見ていられなかったよ?」  それも亮雅にも聞いていたし、獅子谷にかなり心配を掛けたのはわかっている。 「怜旺は弱ってるのに助けは求められないし」  確かにそうだ。  俺には特に。  生徒だからって弱音を見せてもくれないことが多い。 「昔から父親が居なくて、シングルの典子さんにかなり負担掛けてるって気にしてたからねぇ。甘え下手だし……なぁ、まだわからない?」  じっと考えていると顔を覗き込まれて、体を起こしつつ首を傾げた。 「怜旺は性格上、すぐに強がって言っちゃったことも引けない。でも、勢いのまま思ってもないことも言っちゃうんだぞ?」 「あ……」  渋谷の言葉がストンと落ちてくる。  人一倍繊細で、不安でいっぱいなくせに、強がってしかも言ってしまったことは曲げない獅子谷。  ケガが治るまでってことは触って欲しくないわけではない。  治ったら堂々と触りに行けるわけだし。  そして、言ってしまったことで余計に淋しくなっているのは……きっと獅子谷自身だ。

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