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「渋谷!」
パッと立ち上がるのは無理でその白衣の裾を掴むと、渋谷はふわりと笑った。
「父さんに病室回ってもらうように頼んでくるから、もう少し待って」
立ち上がって廊下を歩いて行く渋谷を見送って背もたれに体重を預ける。
目を閉じて、俺がやるべきこと……をとにかく考えた。
そもそもが俺が招いたことなのに、それを亮雅が被ってくれていて、祐生が教えてくれて、獅子谷が助けてくれた。
それなのに俺は……。
どんどん自分の不甲斐なさを実感して落ち込んでくる。
でも、今はそんな場合じゃない。
守りたかったはずの獅子谷を弱らせたのは自身。
まぁ、獅子谷は弱っているなんて認めないし、見せないだろうが。
あのアパートから出たばかりでただでさえ新生活になっていたのに、俺が不安要素持ち込んでどうする!
カバンからノートを出して破るとそこに『ごめん。一人で行くわ』と渋谷へのメモを残した。
ソファーの端まで寄って柱に手を付くと、腹筋に力を入れつつ意地で立ち上がる。
肩にカバンを引っ掛けると、左右に松葉杖を持って何とか足を踏み出した。
ここまで渋谷に頼るのも違う気がしたから。
「あ、俺。ちょ、色々あって電車で帰るから」
病院を出たところで仕方なく母親にも電話をする。
渋谷が送ってくれることになっていたし、これ以上迷惑を掛けるのも悪いから。
色々言ってきたがさっさと切ってスラックスのポケットに突っ込むと、そのまま近くのバス停へと向かった。
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