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朝一は避けてやって間もなく正午だというのに獅子谷が出て来ない。
メッセージの返信もなく、電話も出ず、インターホンにも反応しなくて、さすがにどうしようかと頭を悩ませる。
買ってきた食材の入ったカバンを置いて唸ると、もう一度電話をしてみた。
しかし、やはり鳴り続ける呼び出し音。
「マジかよ」
呟いて切ろうとすると、
『……ん』
やっとかなり気怠げな声が聞こえた。だが、
「獅子谷?」
声を掛けてもまた反応はない。
「おーい!怜旺ー?」
『んぅ……?』
名前で呼んでみるとやっと少しだけ反応はあった。
どうやらあの寝惚けたふにゃふにゃ状態らしい。
昔はあんなにカッコよくて、今、普段の学校ではクールで居るくせに……寝起きがかわいいとか本当どれだけこっちを悶えさせる気なんだか。
「開けてー!」
とにかく呼び掛けてみると、しばらくしてカチャと玄関の鍵が開く音がした。
なのに反応はなくてそっと開くと、まだぼんやりとしている獅子谷。
「寝てたのか?」
聞くと、こくりと頷く。
「おはよ」
「……はよ」
「入っていい?」
「……いい」
やはりオウム返しでそのかわいさに抱き着くと、獅子谷は俺の胸にすり寄ってそっと目を閉じた。
「っ……ズルくね?」
このかわいさは何なのか?
顎の下に指を掛けて上を向かせると、微笑んで獅子谷は少し口を開いた。
その唇にピタリと合わせてしばらく何度も角度を変えてその柔らかさを味わう。
開いた口の隙間から獅子谷の舌が先に出てきてそれに絡めると、獅子谷は甘い吐息を溢した。
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