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「……は?」
病室に入った瞬間に獅子谷がピタリと足を止める。
「何?」
その脇から俺も覗いてあまりにもの派手さに言葉を失った。
風船とオーナメントでいっぱいの病室。
これはさすがにやり過ぎじゃないのか?
「入んないの?」
後ろから滝本に言われて獅子谷が振り返る。
「これ、何……」
「あー、イブだし?パーティーしないか?」
俺の後ろに居た渋谷に聞いてニッと笑われると、獅子谷は深いため息を吐いた。
「クソ医者がフザけてんのか?」
「えー!僕がやりたいって言ったんだよ!ごめん!ダメ?」
獅子谷が俺を越えて渋谷の胸倉を掴むと、獅子谷の引くなった声にすぐに滝本が反応する。
「フザけてないよ。この十年、典子さんはずっとここで一人だったんだ。やっと俺たちも一緒に居られるだろ?」
渋谷か怯むことなく真っ直ぐ見返すと、獅子谷は眉を寄せて手を振り払った。
「怜旺、典子さんってさぁ!いっつもにこにこしてて……怜旺を笑わせるためにいっつもブッカブカのサンタ服着て白ヒゲつけてたよね」
「……クリスマス過ぎてからな」
弾むような滝本の声とは正反対の獅子谷の寂しげな声。
クリスマスの寂しさは俺もよくわかるが、渋谷と滝本の話を聞いていると少し感じ方も変わる気がする。
「典子さーん!ずっとやりたがってたパーティーをしましょうね?」
渋谷がベッドに近づいて声を掛けるのを見て、俺は獅子谷の手を握った。
「俺も近くで挨拶していい?」
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