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ゆっくりだけど頷いてくれた獅子谷と一緒にベッドに近付く。
渋谷が退いてくれて見えたその顔。
色んな配線が繋がってはいるが、想像していたような酸素マスクも何もない綺麗な顔だった。
閉じた瞳にかかる長いまつ毛に艶やかな黒髪。
「……似てるな」
「そーか?」
眉を寄せる獅子谷に笑い掛けてから少し屈んで枕元に寄る。
「凄ぇ美人」
思わず呟くとかなりの勢いで後頭部をぶん殴られた。
ズキズキと痛む頭を擦って苦笑いを堪らえつつ再び膝を少し折って獅子谷の母を見つめる。
「初めまして。怜旺さんとお付き合いをしている椎堂圭斗です。まだ今は生徒で頼りないかもだけど、しっかり守るんで……任せて下さい」
もちろん獅子谷の母の返事はないが、繋いでいた獅子谷の手に力が入ったのに気付いて顔を上げた。
真っ赤な顔をしている獅子谷。
膝を伸ばしてその獅子谷を抱き寄せる。すると、
「へぇ……」
笑っている滝本と目が合った気がして、声に反応した獅子谷がバッと体を離した。
「いや、あの……」
焦ったような獅子谷に滝本は近づいてきて手を伸ばす。
触れたのが俺の腕で獅子谷の腕に移動させてやると、滝本はふわりと笑った。
「怜旺、よかったね」
「へ?」
「いっぱい幸せになってよ!」
ギュッと滝本に抱き締められて獅子谷の顔が歪む。
いつまでも離れない二人に俺が少し焦れ始めると、渋谷と目が合って思いっきり笑われた。
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