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「これ……綺麗だな」
その石に触れると、まだ腕で顔を隠していた獅子谷はそろりと目を見せる。
「……黒曜石」
「は?」
首を傾げると、獅子谷はまだ息を弾ませながら腕を外した。
「“後ろ向きな気持ちを浄化して人生への希望を呼び覚ます”って言われてんだよ」
息を吐き出して整えた獅子谷はゆっくりと俺の首から下がっている石に触れる。そして、
「 自分の身に余るようなトラブルが降りかかり、生きることに疲れてしまった時に活力をもたらしてくれる石だ」
石を見つめて、一度目を閉じた。
「母さんが昔から着けてたピアスでな。辛い時はこれに触れて「笑え」ってよく言われたんだよ。だから、母さんが寝たきりになってからは俺が着けてたんだ」
俺の記憶の中にある“小さき百獣の王”が着けていたのは俺がしているようなシルバーのフープピアスなのは間違いじゃないと思うが……。
「そんな大事なモノ……いいのかよ?」
俺も獅子谷の胸元にある石に触れると、獅子谷はフッと表情を緩める。
「大事なモノだから……だろ?」
穏やかなその|表情《かお》を包むように両手でその頬に触れると、獅子谷はこっちを見上げた。
「怜旺……愛してる」
言って軽くキスをすると、獅子谷はしっかりとしがみついてくる。
「……俺、も……」
その顔は見せてくれない。
でも、もうそんなことどうでもよくて、俺はその首筋にキスを繰り返す。
くすぐったそうに身を捩った獅子谷を抱き締めて今度は耳を食んだ。
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