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第3話-1 閉所恐怖症
その日の夕方僕は寮長に呼ばれ、そのまま反省室送りとなった。
どうやら昼間に僕とやりあった相手がどっかの伯爵家の嫡男だったようだ。うちは貧乏子爵。順位は僕の方が下位だし先に手を出したほうが悪いとなったようだ。あのときサムが止めに入ってくれた為、大ごとにはならなかったものの、僕はあいつに手を出されなかった。結局手を出したのは僕一人となったのだ。つまり首謀者は僕と言う事になり罰を与えられたという事だ。
「……なんでこんなに狭いんだよ」
まあ、やってしまったことは仕方がない。罰も受けるつもりだったが……。反省室は狭いスペースに窓がなく毛布が一枚あるのみ。息が苦しい。嫌な予感がして、部屋を出る前に安定剤は飲んできたが、こんなに閉塞感があるならクスリは効かないかもしれない。
暗闇の中にいるとあの時の恐怖を思い出す。せっかく乗り越えたと思っていたのに。
幼い頃、身代金目当てに誘拐されたことがある。僕を高位貴族の子息と間違えたようだった。犯人はすぐに捕まったが僕は長い時間狭い木箱の中に閉じ込められていた。窮屈な姿勢で縛られていたせいか肺が圧迫され息苦しく、あと少し見つけるのが遅かったら窒息していたかも知れなかったらしい。その時の事が引き金となり、狭く暗い場所では閉所恐怖症を引き起こしてしまうのだ。いまだにときおり発作を起こしてしまう。
「ヤバい。めまいがしてきた」
手足が震えだす。学園長には伝えてあったのだが今日は不在らしい。なんとも運が悪い。
「完治できたと思ってたんだけどな」
ここ数年わりと飄々と生きてきた。精神的なトラウマが原因と言われたため、自分の気持ちには嘘をつかずストレスを溜めこまない様にして。やりたい事はやる。でも身の丈に合わないことはしない。無理せず必要以上に誰かに関わってトラブルを起こさない様にしてきた。
「だけど……許せなかったんだ」
サムを悪く言うなんて許せない。きっとサムは外見だけで皆に悪いイメージを持たれてたんじゃないのかな? 悪い奴じゃないのに。最近は無表情なりの変化に気づけるようになった。ちょっとした目の動きや動作で彼の考えがわかるのが嬉しい。
「明日の朝まで持つだろうか……サムに会いたいよ」
どのくらい時間がたったのだろうか? 意識が朦朧として身体が震えているのがわかる。寒い。寒くて手足がしびれてくる。まるで縛られているかのように。息も苦しくなってきた。
ガチャッという音と共に扉があくと誰かが入ってきた。
「アル? どうした? しっかりしろっ!」
「……っ! ……サ……ム?」
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