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第3話-2 

 ◇◆◇サミュエルSide  俺は医者から聞くまでアルベルトが閉所恐怖症だというのを知らなかった。たぶん、こいつの事だから聞けば話してくれたのだとは思う。 「だめだな俺は……」  俺は公爵家の第一子だが、嫡男は弟だ。俺は側室の子だった。それでも最初のうちは跡取りなのだと厳格に育てられた。第一子ということで産まれてすぐに実の母と引き離されたせいか、俺は可愛げのない子供だった。感情というものが乏しかったのだ。幼いころから無表情で淡々と言われた事をこなしていく俺に周りは一線をひいていた。  しかし正室である義母に男子が産まれた途端に俺の立場は変わった。待望の息子だったのだろう。義母の喜びようはすごかった。徐々に周りは俺よりも弟のほうへと擦り寄って行った。義母の俺に対する態度が変わり始めたのもその頃だ。それでも俺は変わらず剣の稽古や勉学をこなしていった。無表情で何を考えてるかわからないと義母たちは俺の事を気味悪がった。そんな俺を父だけは見放さなかったらしい。父譲りの体格の良さや剣の腕を見込まれているようだ。それが義母の心を余計に不安にさせた。遅くに出来た弟は病弱で俺が家督を継ぐのではないかと恐れているのだ。  父から青い瞳を譲り受けた。しかし褐色の肌と髪の色は母親似らしい。  義母はその目立つ俺の容姿が気に入らなかった。忌まわしい目で見られるのが煩わしくて、この学園には俺の意思で入学した。  体格が良すぎて一人部屋のベットでは俺の身体は入らず、規格外のベットを置くためにこの角部屋を使用している。そこのところは公爵家の力が働いていたのだろう。  しかし、ここでも義母は俺に手を回してくるようになった。この数年何度か毒を盛られたり、寝込みを襲われたりしたのだ。もちろん返り討ちにしてやったが。  だからなるべく同室の者とは顔を会わさないようにしていた。俺はあまり他人の感情というものがわからない。必要なければしゃべる必要も無いと思っていた。そのため、皆すぐに転室届をだして去っていく。俺にとってはどうでもいいことだった。  だけど、アルベルトは違った。彼は初見からまっすぐに俺の目を見て話しかけてきた。その長いまつげに大きな瞳。揺れるような金髪に白い肌。そしてほころぶように俺に向かって微笑んだのだ。自己紹介をされたというのに俺は返事をすることもできなかった。  何か言わなきゃと思えば思う程何を言っていいのかわからない。ずいぶん時間がたってからやっとの思いで俺は自分の名前を告げた。 「サム?」  呼びかけられて鼓動が跳ねた。どんな顔をすればいいのかわからず部屋を飛び出したほどだ。  同じ部屋に自分以外の人間がいることをこれほど意識したことはない。  例え相手が俺に放たれた刺客だったとしてもだ。格闘技において俺は自分の腕に自信があった。護身術に関してもそうだ。そういう相手は俺に対して一定の緊張感を持つ。だからすぐに返り討ちにあわすのだが……アルベルトはいつも穏やかで鼻歌混じりに楽しそうなのだ。まるでこの部屋にこれたのが幸せだというように。  

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