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第27話-3

 マントをかぶった男がノワールに手を貸し抱き起こしていた。 「うむ。よくやったぞ!おぬしには褒美をやろ……ぶぎゃ」  マントの男がノワールの頬をぶん殴った。 「この!馬鹿者めが!お前という奴は!この!」  もう片方の頬まで思いっきりぶん殴る!勢いでマントがズレ、顔があらわになった。 「あのときの老兵?」 「あの人はノワールの父親だ」  サミュエルが僕の耳元で囁く。どきどきするじゃん。でもあの時新領主に会いたいって感じだったのは、やはり残した家族が気がかりで戻って来たって事なのじゃないのだろうか? 「え?じゃあ、この家の主?」 「いや、家督はすでに息子に譲ってこの家を去っていたのだ」 「ち、父上なのですか?」  ノワールが瞠目している。両頬が腫れてハムスターのような顔になっていた。 「この地が狙われてると聞いて戻ってみればなんとも情けない事か」 「それは……だが吾輩を捨てた貴方に言われたくないわ!」 「……それについては悪かったと思っている。だが、領民を守り領地を護るのが領主の務めだぞ!」 「吾輩なりに守ってきたわ!それに自分の領地だ、好きにして何が悪いのだ!」 「それが思い上がりだというのだ!傲慢すぎる!」 「うるさいっうるさい!吾輩に指図をするでないぞ!」 「この期に及んで何故おまえは反省しないのだ!」 「そこまでだ。ノワール伯爵。お前には王都から沙汰が降りるまでこの地で幽閉となる」  サミュエルの言葉にノワールが驚く。 「な!何故吾輩が幽閉されなくてはならない!」 「それだけの事をしようとしたではないか!」 「こ、これは……そうだ。そいつらにそそのかされたのだ。主犯は平民だ!貴族の吾輩ではないぞ!」 「貴様あ!この期に及んで!」  老兵が剣を抜いてノワールに向けた。 「ひぃいいっ」  ノワールはその場で腰を抜かしてしまった。 「だめだ!切ってはいけない!ノワールは自分の罪をあがなわなくちゃいけない」  僕は必死で止めた。だって息子じゃないか。手にかけるなんて悲しすぎる。 「しかし、こやつは性根が腐っておる!」 「なら更生させてあげてよ。アンジェリカが悲しむよ?」 「ぐ……わかりました」  やはり孫の事が気になっていたんだろうな。項垂れる姿に悲哀を感じてしまった。  

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