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第30話-1 辺境伯は溺愛中

 サミュエルの言った通り、半数以上、自警団から騎士団員の合格者が出た。惜しくも合格できなかった者も準師団員として騎士団の下に就くことが出来るようだ。これで辺境地支部の下地が揃った。 「サミュエルが支部団長になるの?じゃあヴァイスは?」 「ヴァイスは副団長になってもらう。呼び名は変わるが地位的には自警団の時よりもずっと上になる。だから今まで出来なかった貴族への追及や捜査なども可能となる。俺が統括することになったこの地で差別などは許さない。平民や貴族に関係なく調査もするつもりだ」 「そうなんだ。忙しくなるね」 「ああ。王都との行き来も増えてくると思う」 「よし!では次の騎士団試験の時は僕も志願するよ!」 「……なぜそうなる?」 「だって、そしたら一緒に居れる時間が長くなるでしょ?」 「……それは。嬉しいが……領地経営と両立は難しいぞ?」 「一人でやるなら難しいだろうね。でも僕らは二人だ。分担すればいいよ!」 「……これは言いたくなかったが……ブルーノがうちで働きたいと言っている」 「え?ほんと?それは助かるよ!デセルトだけじゃ負担をかけるなって思ってたんだ」 「……ブルーノはアルのいう事は何でも聞くだろうし何かあれば身体を張ってでもアルを護る奴だ。だがそれゆえに気に入らぬ。俺以外の男がアルに絡むなど……」 「ブルーノもデセルトもシルバーグレイの紳士だよ」  お二人とも壮年の執事だ。頼もしいし気品があるのは執事と言う役職だからかな?サミュエルが気にすることなんてまったくないのに。  あれからノワール伯爵は王都に連行された。爵位は没収され今は牢屋にはいっている。ノワールの屋敷はサミュエルの預かりとなった。しばらくは騎士団支部の中継地点として使われるだろう。 「どうかお願いだ。この屋敷は出来ればアンジェリカに渡してやれるようにしてほしい」  ノワールの父親が懇願してきた。やはり孫は可愛いらしい。 「……善処する」  さすがにサミュエルも即答は出来ない。だって屋敷はもう伯爵家のものではないのだから。 「……事の顛末には父親としての貴方の手腕も関わっているだろう?罪滅ぼしをしたいのならココに残りこの地を護る手伝いをしてくれないか?」 「わしはもう歳じゃ。ろくな戦いも出来ぬ」 「ああ。やって欲しいのは指導だ。傭兵が欲しいわけではない。若い団員達をしごいて欲しい」 「わしのような半端な親にもなれない無責任な者でも務まるというのか?」 「自覚があるならその分、愛情をかけて指導してくれ」 「そうだよ。アンジェリカが戻るまでここにいて」  ノワールの父親と言う事はアンジェリカのお爺様になる。身内が誰もいないよりはいてくれた方がアンジェリカも心強いだろう。 「アンジェリカ……。わかった。孫が戻るまで頑張るとする」  そのアンジェリカは今、僕の母さまの元にいる。淑女修行と言うか、人生やり直しと言うか。一から叩き直してくださいとアンジェリカが母さまに頼み込んだのだそうだ。  何があったか知らないが彼女は母さまの事を師匠と呼び慕ってるようだ。母さまもなんだか嬉しそうに張り切っていたので任せることにした。……多分大丈夫だろう。多分。数年したら戻ってくるような事を言っていた。

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