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※シャワーブース・ウィズ・ゴードン その2
挿入もまた、性急に行われた。ぐぐ、と最初の一突きで半ばまで。それでもハリーの息を切らせるには十分だったのだろう。預けた壁から、湾曲した背中が浮き上がる。全身を打つ激しい水流に混ざって、掠れた喘ぎが湯気の籠ったシャワーブースへ満ちる。
一応、彼も我慢しているのか。その時ゴードンは、今の状況の異様さをようやく知覚した。この個室の扉は大きく、頭から脛の半ばまでのプライバシーを担保する。だが例え正体は分からずとも、脚が4本絡みあっているのは丸見えだ。
「俺達の2時間後スタートで、マーマン議員とスティーヴンス議員が回っていましたね」
左脚を脇へ抱えてやることで、より体を密着させざま、ゴードンはハリーの耳へ吹き込んだ。
「ジョン達、が? ぼ、くのプレイを見て、笑ってたかも」
「それは構わないでしょう、あんたの腕前は市議会議員の全員が知ってる……それよりも、どうします。彼らが今、このシャワーブースに来たら」
言葉遊びではなく、5秒後に本当にあり得る話だった。なのにハリーは、ゴードンが嬉々として自らを嬲っていると思い込んだらしい。きゅう、と直腸の締め上げが激しくなったのは、不安定な体調も相まった緊張故だ。けれどそこが、ひたすら奥へ奥へと含んだ物を送り込もうと急いている事を、生理的反応だけで片付けても良いのだろうか。
「ぁ……僕は、肺が強いって、モーが」
「そうですね、特に最近、あんたの喘ぎ声は執務室のドア越しにも何を言ってるかはっきり聞こえることが」
「馬鹿、ランニングの時に褒められたんだ」
「まだ走るの、続けてるんですか」
そう言えば、最近体が締まったような気がする。脂肪の膜が無くなり、神経が肌へ近くなった肉体は敏感になる。脇腹へするりと手を這わせれば、ハリーは短く高い嬌声を上げた。
「でも、普通こんな時に、別の男の話をしますかね」
「君でも、嫉妬するんだな」
「まあ、俺も男なんで」
中途半端に潜っていたペニスを、最奥へくぐらせる。
「ぅ、ぁっ、ん……」
蒸れた股座と、陰毛が擦れ合う感覚に、と天を仰ぎながら身を震わせるのは、果たしてトレーニングの成果だろうか。
けれどゴードンは、そこで動きを止めた。奥の窄まりは超えている。雁首を締め上げる弁の、咀嚼するような動きは尾骶骨まで痺れそうな程だった。
ここで思う存分突き上げてやれば、それは気持ちいいことだろう。けれどゴードンは、じっと待った。ハリーの身体が把握するまで。形、感触、熱さ、何もかもを。
あわよくば完璧に覚えてくれと、期待をしてしまうが、そこまで贅沢は言わない。ただ、今は、この時間を全力で味わって欲しかった。
きゅ、と逞しい腕が首元へ一層絡みつく。うっすら生えた体毛と、その中からぴんと太々しく主張する乳首をゴードンの胸板へ擦り付けるとき、その胸は大きく喘ぎ、時折震えを走らせる。
「ゴーディ……」
「あんたどうしようもなく傲慢な男ですよ」
先程からずっとそそられていた、たっぷりと肉のついた尻を鷲掴み、ゴードンは頑是なく振られる頭の動きを耳へ立てた歯で封じた。
「まるで安食堂の女給みたいに、くるくる男達の間を飛び回って、忙しなく奉仕する。目先にぶら下げられた端金のチップのことばかり考えてね」
「あ、それ、きもちい……」
「だが、いい加減大局を見据えてもらわないと困ります」
まるでゴードンのペニスの形にあつらえたかと思うほど、ぴったりと密着する内臓の円周を、ゆるゆると回す腰の動きで広げていく。肉が撓む度、粘膜の下へ張り巡らされた感覚受容器にびりびり電流が走るのだろう。通電させられているかの如く、ハリーは何度も大きく肩を竦ませ、片足だけで爪先立ちずり上がろうとする。勿論逃さず、ゴードンは幹の長さめい一杯使うようにして、内壁を撓ませた。膨れ上がった前立腺の周辺も引き攣れたのだろう。
「ふ、ぅ、ぐっ」
ごん、と音が響く程後頭部を壁にぶつけ、ハリーは火照った肌を更に熱くした。膿んだような温度は下腹にまで波及する。触れてやった時、ゴードンは明確に、己のものを咥え込んだそこが、焼けるようだと思った。
「あんたが市長になって3年。あんた、俺やエルの働きに見合うだけの覚悟を決めてますか……別に給料の話をしてるんじゃないですよ」
「ん……逆、だよ。君達が、僕を導いてくれる。こんな地方都市の市長を、一端の政治屋へとね」
「それじゃあ駄目なんです」
ずぼっと、一気に芯を引き抜き、痼りを思いきり先端で突き潰す。
「あっ、ああ、ゴーディ、それ、い、いいっ……!」
「俺達は……俺は、あんたを、操り人形にするつもりは、ないんです。あんたが、指をさして、俺達を破滅へと、突き進ませる位の、気概でなきゃあ」
「ふ、ぅ、そんなこと、言ったって……」
これだけ蕩けても、まだこんな事を抜かしているなんて、この男は本気で、他人を慮っているのかも知れない。それとも、まだ快楽へ染まりきっていないか。
それを確かめる為、ゴードンは力任せに腰を叩きつけた。
「ん、ぐ……っ」
自慢ではないが、己のものは他人と比べてかなり長いので、ハリーをたっぷり愉しませてやれる。奥まで満遍に腸壁へ圧を与え、さながら切先で刺し貫くかの如く結腸を抉り蹂躙するのだ。
爪先立ったハリーの足指が、タイル貼りの床を掻く。脚を少し下ろしてやるだけで、接続が深まったのだろう。ゴードンは、程良く緊張の抜けてきた内臓を突き始めた。とちゅ、とちゅと甘い水音が、ハリーのくっきり男らしい隆起を見せる腹の中で響いている。擦られ過ぎた余り、ぷっくり充血した弁を捏ね回すと、ハリーは食い縛った歯の奥から、とてつもなく甘ったれた唸りを漏らす。
けれどこんなの、ほんの序の口だ。
身体を抱え上げられれば悲鳴が上がる事は承知している。突然の口付けと浮遊感へ、予想通りハリーはゴードンの熱く粘った口の中へ叫びを放った。想定外なのは、彼の歯がこちらの唇へ引っかかり、舌の上へ鉄錆の味が広がったこと。
勿論、衝撃から立ち直ったハリーにも聞こえただろう。和やかな談笑の声と、ぺたぺたとタイルを打つ呑気な足音が。
マーマンとスティーブンスは、幸い手前の方のブースに入ったらしい。古き悪しきロッカールーム文化、壁とシャワーを飛び越える為、お喋りの声は相当大きく、こちらにまで内容が聞こえてくる。
「やっぱり2人は、あんたのプレイを見ていたようですよ」
「くそっ、好き放題に……分かってるよ、ひ、ぅ、僕は、左に飛ばしがちなんだ、っ」
殆ど息だけなゴードンの耳打ちに、ハリーも潜めた声でささめく。
「あ、マーマン、地元の、街灯について、何か議案、出そうと……絶対、絶対、通さないぞ……っ?!」
緊張、籠った腹筋によって開いた結腸口。両足が床につかない体位。壁へ背中を強く押し付けられ、揺さぶられると、なす術ないと今更自覚したのだろう。余りに深い場所をこれでもかと抉られ続け、ハリーは途中から悪巧みなどすっかり忘れてしまったようだった。これで酸欠にまでなったら堪らないと、幾ら恐れ知らずのイーリング市長でも怖くなったのだろう。再びかぶり付いてきたゴードンの口から逃げようと必死に頭を振るから、ぎゅっと閉じた目から涙の粒が──シャワーのかな臭い水ではない、それはぬるく、塩辛い。
もっと、もっとだ。ゴードンはハリーの首を掴み、壁沿いに滑り落ちた身体を引き回した。床へ両肘両膝ついた格好にさせ、再び後ろから挑みかかった時、ハリーは自ら両手で鼻から下を塞ぎ、積極的に窒息しようとした。
ゴードンが頸動脈への圧を強めれば強めるほど、中はもみくちゃになる──肉体の他の部分は従順なのに、そこだけが生きる為、死に物狂いで暴れ抵抗しているかのようだ。
そう、生き残りたいなら、必死になって貰わなければ困る。倫理観なんか投げ捨てろ。善意を嘲笑え。あんたが潰えたら、俺はあんたを許せない。きっと人間の理性とか、そう言うお為ごかしを軽々と越えて怒りは燃え上がり、あんたすらも焼き尽くす。
2人が去って幾らもしないうちに、ゴードンは腰から力が抜ける程の激しい射精をした。ハリーも中に出される事で、一際強く感じたらしい。
「あ、あっ」
痛がっているような、泣いているような声は、降り注ぐシャワーで紛れるかも知れない。だがゴードンが引き抜いたペニスからぽたぽた垂れる精液は、排水管を詰まらせるかも。
首を解放され、緩慢な動きでこちらを振り返ったハリーは、回らぬながらも、切羽詰まった声で呟いた。
「きみは、僕を殺せる唯一の人間だな」
「滅私奉公の趣味はないんでね」
だから、もっと。その続きを、結局ゴードンは、血混じりの唾と共に吐き捨てた。
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