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私にできること
食事を終え、さっと後片付けに向かうトモキの後をついて行って、私も片付けに参加する。
怪我をしている私を気遣ってくれていたが、こんな傷、訓練ではよくあることだし大した問題ではない。
片手でもやれる方法はあるものだ。
あっという間に片付けを終えると、トモキは今度は分厚い布を敷き出した。
枕が置かれているところを見ると、これは寝具なのだろう。
床にそのまま寝るのか……。
とはいえ、板ばりの床でないから痛くはなさそうだ。
やはり住む世界が変われば寝るにしても変わるものなのだなと思っていると、トモキはその寝具を二つ並べて敷き始めた。
まさか……一緒に寝るのか?
寝具が別とはいえ、同じ部屋で並んで……。
もしやトモキもそれを望んでいるのか?
そんなことが少し頭をよぎったが、
「あの、ダメでしたか? 僕、寝相も悪くないし、寝言は……ちょっとわかんないですけど、イビキとかはかいたりしないと思うので迷惑はかけないと思いますが……」
と斜め上の心配ばかりをしているトモキを見れば、私のような考えなど一切持っていないことがわかる。
本当にただ隣で寝るだけなのだろう。
考えてみれば、ここ以外には寝られる部屋もなさそうだし、きっとトモキは毎晩ここで寝ているのだろう。
そこに私が邪魔をしているだけだ。
愚かな考えは捨てるのだ。
トモキはそんなことを考えてなどいない。
必死に煩悩を捨て、
「トモキが良ければ私は気にしない」
と自分に言い聞かせるようにトモキに返した。
私を見て不思議そうな表情はしつつも、寝支度を整え寝具に入るトモキを見つめていると、明日、私のために買い物に行くという。
どう見ても裕福な生活をしているとは思えない。
それなのに、私がここに留まったせいで余計な出費をトモキに与えてしまい、本当に迷惑をかけてしまっている。
そのことを侘びながら、私はこれからのことを真剣に考えようと心に誓った。
だがトモキはそれをお互い様だといい、さらに
「クリスさんと一緒で楽しいですよ。食事も、こうやって一緒に寝られるのも……一人でいるのは寂しいですから」
と思いを口にした。
やはりトモキはこの家に一人で過ごしているのだ。
父親の衣服が置いてあるにも関わらず、どうして一人で……。
気になって尋ねようかと思ったが、トモキはそれを拒むように話を変えた。
きっと触れられたくない何か理由があるのだろう。
親に捨てられたか、それとも親を失ったのか……。
医術を学ぶのを諦めたのもそこに理由があるのかもしれない。
「クリスさんのいたビスカリア王国、でしたっけ? そこはどんな世界で、騎士団長のお仕事ってどんなことをするんですか?」
トモキがただ話題を変えてくれるためだけに私のことを尋ねたとしても、それでよかった。
私のことを気にしてくれるだけで嬉しかったのだ。
「――――ビスカリア王国はここ数百年も争いもなく、本当に美しい国なのだよ。それでも私は有事に備えて国を守るために日々訓練を続けているんだ」
「へぇ、そんなに美しい国があるんですね。それに、クリスさんの国を守るお仕事って素敵ですね。クリスさんのような強くて優しい方が守ってくださるなら、国民も幸せでしょうね」
「いや、そんなことはない。団員たちには恐れられているよ。訓練も手を抜けないし、王都の見回りも神経を研ぎ澄ませているから、国民たちも近づいてはこないな。きっと怖いのだろう」
「それはクリスさんが真剣に国を守ろうとしていらっしゃるからですよ。必死に頑張るからこそ、クリスさんの気迫や強さが滲み出ているのではないですか? それで犯罪が起こらなかったり、他の団員の方々がもっと強くなるために上を目指すきっかけになるのなら、それは国にとっても素晴らしいことじゃないですか」
「トモキ……」
「僕はクリスさんのような方に守ってもらえたら嬉しいですよ」
「トモキがそう言ってくれるのなら……ではこれから私がトモキの護衛になろう」
「えっ? 護衛?」
「ああ、トモキについて動けばこの世界のことも知ることができるし、トモキに何かならずものが現れた時にはすぐに倒してやれる。素晴らしい考えだろう」
「でも……ならずものなんて……」
「だが、怖がっていただろう? あの暗闇の中で……」
そういうと、トモキはハッとした表情を見せた。
そして一瞬思案顔になったかと思えば、
「わかりました。ではお願いします」
と言ってくれた。
よし、これで公明正大にトモキのそばにいられるぞ。
しばらくして、トモキのいる方向から寝息が聞こえてきた。
どうやら眠ったようだ。
私は、驚くほど低い天井を見つめながらこれからのことを考えていた。
トモキの護衛をするにしても、何かしら働く必要がある。
一人でもこれほど慎ましい生活をしているトモキにずっと世話になるわけにはいかない。
どうすれば良いか……。
とにかく金だな。
金を稼ぐ方法を考えなければ。
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