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クリスさんの告白
<side智己>
目を覚ますと、大きな身体に抱き込まれていた。
一瞬何が起こったのかわからなくて戸惑っていると、
「トモキ、起きたか?」
と頭上から優しい声が聞こえてきた。
「えっ……?」
驚いて顔を上げると、
「――っ!!!」
びっくりしてしまうほど優しい微笑みを浮かべたクリスさんが僕を見つめていた。
何?
何がどうしたんだっけ?
あまりの衝撃に今の状況がよくわからなくなっている。
「ふふっ。混乱しているようだな。今日この家に移ってきたのは覚えているか?」
「えっ……あっ!」
そうだ、それで僕……新しいベッドで少しお昼寝をしたんだっけ。
――あの、初めての場所で……少し慣れなくて……だから、少しだけ隣にいてもらえませんか?
そうだ!
僕がクリスさんにそう頼んだんだった。
「思い出したか? トモキが気持ちよさそうに眠っていたから、私もそのまま寝かせてもらったんだ」
「ご、ごめんなさい……迷惑かけちゃって」
「迷惑なんかじゃない。おかげで私もぐっすり眠れたよ」
クリスさんの優しい言葉に安心する。
「僕も……すごくよく眠れました」
「トモキ……何か夢を見なかったか?」
「えっ……夢?」
そういえば、僕……すごく幸せな夢を見ていたような気がする。
なんの夢だっけ……。
「それは思い出せないか?」
「えっと……」
「私のことが好きだと言ってくれたんだ」
「えっ――!!!」
クリスさんの言葉に一気にさっきまでの夢での出来事が甦ってくる。
――トモキ、愛してる。トモキは私が好きか?
クリスさん、そんなこと……。恥ずかしい。
――恥ずかしがることはないだろう? トモキの気持ちが聞きたいんだ。
ふふっ。く、りす……さん……すきぃ……。
――トモキっ!! ああ、トモキは私のものだ!
そう言われた後、すごく気持ちが良くて柔らかな感触がして、僕は……
クリスさんが好きだって気づいたんだ……。
「あ、あの……僕……あれは、夢だと思って……」
「ああ、トモキにとっては夢だったんだろう。だが、私には夢じゃなかった。私の腕の中でトモキは私に愛を囁いたんだ。悪いが、私はそれを夢での出来事だと受け流せるほどまだ人間ができていないらしい」
「あの、それってどういう……?」
「トモキにははっきり言わないと伝わらないのだろうな。私はトモキを愛してるんだ」
「えっ……そんな……っ」
「信じられないか? だが、それは事実だ。だから、愛しいトモキに愛を囁かれては尋常ではいられない」
そうキッパリ、はっきりと言われて僕は驚くしかない。
だって、クリスさんが僕を好きだなんて……まさか、そんな。
「そして、私は先にトモキに謝らなければいけないことがある」
「あ、やまる……?」
「ああ、そうだ。トモキから愛を囁かれてどうしようもなく感情が昂った私は……トモキの承諾を得ることもしないままに、口づけをしてしまったんだ」
「えっ……く、ちづけ……って……?」
「――っ! 口づけの意味もわからないほど、うぶなのだな。口づけとは唇と唇を重ね合わせることだ」
「そ、それって……」
き、キスしたってこと?
あ――っ!!
あの、夢で感じた、柔らかな感触が……もしかして?
ブワッと一気にあの時の感触が甦ってきて、僕は指で自分の唇をなぞった。
あの熱も感触も全部覚えてる……。
じゃあ、本当に僕はクリスさんと……キスを?
「勝手に唇を奪ってしまったことは悪いと思っているが、トモキと口づけをしたことは後悔していない。むしろ、トモキへの気持ちをはっきりと確信できた。私がトモキを心から愛しているとな……」
「クリス、さんが……僕を、あ、愛してる……だなんて……」
まさか同じ気持ちを持ってくれていたなんて……そんなことあっていいの?
<side???>
「まだクリスティアーノは見つからんのか?! お前たちは一体何をしているんだ!!」
「も、申し訳ございません。ただいま、必死に団長の行方を探しております。ですが、目撃者の話ではならずものを成敗した後でその場から忽然と姿を消したとのことでございます。私の推測ではございますが、団長のご意志でどこかに行かれたとは考えにくく存じます」
「ならば、クリスティアーノはどこに行ったというのだ?」
「おそらく、別世界に迷い込んでいるのではないでしょうか?」
「別世界だと? まさか、そのようなこと……」
「いいえ。叔父上さまもご存知でいらっしゃるはずです。我がビスカリア王国には異世界より救世主さまがお越しになったことがあると。あちらからこの世界に来られるのならば、こちらからあちらの世界に行くことも不可能ではないはずでございます」
「確かにその通りだが……。だとすれば、クリスティアーノは……?」
「異世界で救世主さまとご一緒におられるのかもしれません」
そういうと、バーンスタイン公爵さまはすぐに神殿へと向かわれた。
おそらく神殿長に相談に行かれたのだろう。
それが吉と出るか、凶と出るか……。
ただ、今は神に祈るしかない。
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