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幸か不幸か……
<side新入団員・ルイージ>
「皆に紹介しよう。私の隣にいるのがジョバンニ副団長。彼のことは知っているな。私の右腕であり、君たちの直属の上官だ。騎士団での生活において、わからないことがあれば彼に聞くといい。きっと君たちに的確な助言を与えてくれることだろう。そして、ジョバンニ副団長の隣にいる彼は……トモキと同じく、我が国の救世主だ」
「えっ?」
あまりにも想像していなかった言葉に、思わずあちらこちらから声が漏れた。
「驚くのも無理はないな。我が国の歴史において、一度に二人もの救世主が現れた事実はない。君たちはその歴史の重要な一員となる」
このお方が……救世主さま。
救世主さまといえば、クリスティアーノ団長の腕に抱かれていらっしゃるような、誰が見ても守って差し上げたくなるようなそんな存在だと思っていた。
小さくて儚げな救世主さまを大切にすればするほど、この国が救われる。
そんな言い伝えだったはずだ。
けれど、こちらにおられる救世主さまは、まるで団長のような強者の空気を纏っておられる。
対峙したらその気迫だけで身体が震えてしまいそうになるほどだ。
同じ救世主さまでもこれほど異なるのか……。
「彼の名はタツオミ。今日から我々ビスカリア王国騎士団で副団長として頑張ってもらうこととなった。そして、君たち新入団員は、幸運なことにこれからタツオミの指導を受けることとなる。しっかりと訓練に励み、この国を支えてほしい。良いな!」
「はっ!」
クリスティアーノ団長の言葉に頭を下げたものの、私の心は複雑だった。
だって、タツオミ副団長からは確かにすごい気迫を感じられるが、いくら救世主さまとはいえ、すぐに副団長の職をお与えになるというのはどうなのだろう。
もしかしたら、救世主であるということで無理やり役職をお与えになったのか?
そんなのずっとクリスティアーノ団長の元で支えてこられたジョバンニ副団長がお気の毒だ。
ジョバンニ副団長はそれを望んでおられるのか?
本当は嫌なのに、救世主さまだから声を上げられないだけではないのか?
私はジョバンニ副団長のために何かできないか……?
そんな悶々とした思いが私の頭の中を駆け巡っていた。
「では、ジョバンニ。そしてタツオミも新入団員たちに何か言葉をかけてやってくれ」
「はい」
「承知しました」
「タツオミからお話しされますか?」
「いえ、ジョバンニからお話しください」
「よろしいのですか?」
「ええ」
なんだろう。
業務連絡と言えなくもないのに、なんとなく感じる甘ったるい雰囲気。
それは、救世主さまであるタツオミ副団長の目が先ほどまでの気迫のある鋭い目ではなく、優しい視線をジョバンニ副団長に向けられているせいか?
不思議な感覚を覚えながらも私たちはなおも直立不動で挨拶を待つ。
「新入団員の皆さん。入団おめでとう。君たちは試験の狭き門を突破し、今日この場に立った選ばれし者たちだ。決して途中で諦めず、各々の出せる力を精一杯出し、最後までビスカリア王国騎士団の自信と誇りを持って過ごしてほしい。さっき、団長も仰ったがこの騎士団においてわからないことがあれば、なんでも私に聞いてください。決して自分本位で動くことがないように。いいですね!」
「はっ!」
厳しさの中にも優しさがある。
やはりジョバンニ副団長は噂に違わぬ素晴らしいお方だ。
そして、最後は救世主さま……。
どんなお方だろうか。
私の緊張は激しさを増していた。
「新入団員の皆さん、入団おめでとうございます。こうして挨拶をさせていただいていますが、私も騎士団に入団が決まったばかりで皆さんと緊張は変わりません。クリスティアーノ団長も、ジョバンニ副団長も素晴らしい挨拶をなさっておいででしたが、私には騎士としての経験はなく、そして騎士の方達をまとめる統制力もあるかどうか……そんな未知なる状態です。そんな私が副団長となることに批判も上がるかもしれません。ですが、私はそれを自身の力で跳ね除けましょう」
批判を跳ね除けるほどの力を持っているということだろうか。
思わず声が漏れそうになったのを必死に抑え気づかれていないと思ったが、タツオミ副団長はスっと私に視線を向けた。
「――っ!!」
クリスティアーノ団長を思い起こさせるようなその途轍もない迫力に身体が震えてしまいそうになる。
「騎士の皆さんに私を副団長として早く受け入れてもらえるように、あなた方の訓練は私に任せていただきます。私がもし、あなた方に負けるようなことがあれば、副団長の職を辞する覚悟でおります。だから、あなた方も全ての力を出して私にかかってきてください。それから、挨拶の最後になりましたが……私の隣にいるジョバンニ副団長は、私の愛しい伴侶です。ジョバンニに手を出すようなことがあれば、その時は命を覚悟なさってくださいね」
「ひ――っ!」
タツオミさまの笑顔の挨拶にゾクリと背筋が凍りつく。
このお方はもしかしたら、団長よりも恐ろしい人なのではないだろうか?
今回試験に受かったのが幸運だったのか、もはやわからなくなってしまっていた。
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