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二人だけの秘密
<side智己>
「あ、あの……ジョバンニさん、大丈夫でしょうか?」
「ふふっ。それはどちらに対するご心配ですか?」
「えっ、それは……その、クリスさんは負けないと思いますけど、怪我とかしないかなって……あの、騎士さんも」
「ふふっ。トモキさまは本当にお優しいですね。ですが、ご心配なさらずとも、大丈夫ですよ。団長は手合わせする相手の実力を一瞬で見抜くことができるのです。その相手にあった戦い方をなさるので、一方的な試合には決してなりません。毎年、入団試験でトップになった騎士だけ、団長とああやって模範試合をすることを許されているのですが、今まで一度も怪我をしたことも、もちろん、させたこともありませんよ」
「そうなんですね。なんか、僕……自分でクリスさんが戦っているところ見たいって言ったのに、今日龍臣さんと戦っているのを見てびっくりしちゃって……。すっごくかっこよかったんですけど、あまりにもすごくて……」
声も出せないほどの迫力にまるで映画でも見ているような感覚だった。
あの時は目の前で起こっていることに興奮してしまっていたけど、ここにきて急に現実だと思ったらあの騎士さんが怪我をしちゃわないかとか、クリスさんも大丈夫かなとか不安になってきちゃったんだ。
「ああ、あんなに迫力のある激しい試合になったのはタツオミが強かったからですよ」
「えっ? 強いのはあの騎士さんも同じじゃないですか?」
「ルイージも確かに強いでしょう。ですが、まだまだ団長やタツオミの足元にも及ばないですよ。おそらく片手でも、極端なことを言えば、団長なら目を瞑ってでもルイージを倒すことはできるでしょうね」
「えっ? 目を瞑ってでも?」
「ええ。人は動くときにどんなに音を立てないようにしたとしても、必ずどこかで摩擦が起こるのです。それを完全に消すことは難しいでしょう? 団長はその一瞬の気配を感じ取ることができるのです」
「わーっ、そんなに強いんですね、クリスさんって……」
「はい。ですがタツオミも同じくらいの実力を持っていますよ」
「そうなんですか?」
「だから、あんなにも迫力のある試合になったのです。団長もほんの一瞬ですが本気になっておられましたし。私の知る限り、団長を本気にさせたのはタツオミだけです。タツオミは本当にこの国を守るための救世主なんですよ」
そうか。
僕には力が足りない。
だから龍臣さんがこの国を守るために一緒に来てくれたんだ。
今までの救世主さまはきっと、龍臣さんくらい強い人だったんだろうな。
「僕はおまけだったのかもしれないですね」
「そんなこと――っ!! 絶対に違いますよ!」
「でも……僕はなんの役にも立ててないですよ」
「何を仰っているんですか! 団長の力の源はトモキさまの存在そのものですよ。団長なくしてはこの国そのものが消えてしまうかもしれないくらい重要なものなのですから、その力に命をお与えになるトモキさまが救世主なことに間違いありません。癒しの力はトモキさまが、そして実際に守るのはタツオミが……そう役割を担っていると思いますよ、私は」
「ジョバンニさん……」
「だから、決しておまけなどとお思いにならないでくださいね。団長が悲しみます」
「はい。あの、今の話は……」
「ええ。団長には内緒にしておきましょうね。二人だけの秘密です」
笑顔を向けてくれるジョバンニさんの優しさが僕は嬉しかった。
「さぁ、始まりますよ。どちらも応援しましょう」
「はい」
訓練場の中央で対峙するクリスさんとルイージさんに注目した瞬間、
「始めっ!!」
という龍臣さんの声が響いた。
その声と同時にガンッ! と木剣がぶつかり合うその激しい音に身体がビクッと震える。
「大丈夫ですよ、しっかり見ていてください」
一生懸命大きな山を倒そうと向かっているルイージさん。
あなたが倒そうとしている山はとてつもなく高い。
でも、悔いのないように戦ってる姿ってすごいなと思う。
クリスさんが本気を出せばきっと一瞬で終わってしまうんだろう。
けれど、ルイージさんの力を理解して、それに合わせて相手をしているクリスさんも本当にすごい!
戦う姿って本当にかっこいいんだな。
「クリスさん……かっこいいですね」
「いつもと違う姿を見るというのは確かにドキドキしますね」
「ああ、それって龍臣さんのことですか?」
「えっ? ええ。そうですね」
ジョバンニさん、本当に龍臣さんが好きなんだな。
そんなことを思っていると、
ガンッ! ガンッ!
木剣のぶつかり合う音が大きくなってきて、若干クリスさんが押されているように見える。
「わっ! クリスさんが負けちゃう!」
「大丈夫ですよ」
ジョバンニさんはそう言ってくれるけれど、僕はたまらず
「クリスさんっ! 頑張ってっ!! 勝ってーっ!!」
と叫んでしまっていた。
その瞬間、ガンッ! と一際大きな音がしたと同時にルイージさんの木剣が訓練場の天井に突き刺さるのが見えた。
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