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第2話 十年越しの初デート(7)

「――……」  侑人は反射的にキャッチしたそれを見てぽかんとする。  手の中にあったのは、銀色の鍵だった。 「それ、うちの合鍵な」  高山がなんでもないことのように言ってのける。しかも、煙草に火を付けながら。  侑人は信じられない気持ちで、鍵と高山を交互に見やった。 「バッ……こ、こんな大事なもん投げ渡すなっ」 「なんだよ、もっとロマンのある渡し方がよかったか?」 「違ぇわ!」  声を荒らげて抗議するも、やはり何ら意に介さず。  高山は煙草の煙を吐き出すと、こちらへと手を伸ばしてきた。そして、そのまま優しく頬を撫でてくる。 「いつでも好きなときに来いよ」  と、ついでにキスをして。  侑人は不意打ちに赤面し、高山の胸を力の限り押し返した。 「帰る!」 「っと、おい待てよ!」  制止の声も聞かずに、玄関の外へ飛び出す。  が、すぐに足を止めることになった。手元にあったのは渡された合鍵だけ――バッグをうっかり玄関に置いてきてしまったらしい。  仕方なく踵を返して高山の部屋に戻るのだが、ドアを開ければ、バッグを手にニヤニヤと笑う家主の姿があった。 「こっちはマジの忘れもん」 「……っ」 「ほんっと可愛いヤツだな。鍵だけ持っていくなんて――そんなに嬉しかったのか?」 「んなわけあるか! バカ!」  ひったくるようにバッグを受け取って、今度こそ部屋を後にする。  エレベーターに乗り込むなり、腹立たしさを誤魔化すようにボタンを連打した。 (ああくそっ、ムカつく! 何なんだよあの人!)  先ほどから心臓がバクバクとうるさくて、やたらと顔が熱い。それもこれも怒りがおさまらぬせいにしたかったけれど、一人になった途端に胸がきゅうっと切なくなって、考えがまとまらなくなってしまう。 (合鍵、とか――マジで恋人みたいだ)  コートのポケットの中で合鍵を握りしめる。  つい突っぱねてしまったが、高山から鍵を受け取ったとき、本当は胸のあたりがじんわりと温かくなった。嬉しいと感じる自分に戸惑いつつも、なんだかこんなふうにまた過ごしたいと思えてしまう。 (……変なの。ついこの間まで単なるセフレだったのに)  エレベーターを降りてマンションを出れば、外はすっかり暗くなっていた。  星一つ見えない夜空を見上げて、侑人は小さく息を吐く。冷たい秋風が頬を撫でるも、火照った体にはちょうどいいくらいだった。

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