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番外編 寂しがり屋のひとりえっち♡(1)

 二人での共同生活にも慣れてきた頃。  高山が夕食の席で切り出したのは、海外出張の話だった。 「ふうん、このご時世に海外出張なんて大変だな。気を付けていってらっしゃい」 「おいおい、ちょっと冷たくねえか? 最近は角が取れて、すっかり丸くなったと思ってたのによ」 「いや、仕事なのにこれ以上なんと言えと……。ああ、お土産はいらないから。無事に帰ってくれば十分」  同情こそすれど、出張なんてサラリーマンならよくあることだ。これ以上かける言葉がないのだが、高山はなぜか不服そうにしていた。 「ったく、二週間も離れ離れなんだぞ? 寂しくないのかよ?」 「ええっ? たかが二週間程度、子供じゃないんだし」 「俺は寂しいけどなあ」  高山がわざとらしくため息をつき、箸を置いた。テーブルに頬杖をつきつつ、こちらをじっと見つめてくる。 「まだ食ってんだけど」 「今のうちに補充しとかないと、だろ?」 「いい歳して大袈裟な……」  正直、なにを言っているのかと呆れてしまう。  いちいち寂しがるほど子供でもないし、海外とはいえ二週間程度ならあっという間だろう。  そう軽く捉えていたのだが――のちに侑人は身をもって、その言葉の意味を知ることとなるのだった。     ◇  数週間後、高山は出張先であるロサンゼルスへと旅立った。  最初のうちは、侑人も平然としていたものだったが、 「……二週間ってこんなに長かったっけ」  シャワーを終えて、濡れた髪をタオルで拭きながら呟く。  一人きりの部屋はやけに広く感じられたし、話し相手もいないため静かだ。食事もどこか味気なければ、テレビをつけても興味を惹く番組もなく、BGM代わりに流しておくだけになってしまった。  もちろんのこと、高山は頻繁に連絡してくれていたものの、なんせ十七時間の時差がある。あちらが夜なら、こちらは昼間だったりとなかなかタイミングが合わない。  そんなこんなで次第に寂しさを覚えるようになって、今ではこのありさまだ。  たかが二週間、されど二週間。二人でいる日常に慣れてしまったぶん、会えないものはやはり寂しい。 (でも……やっと、今日帰ってくる)  そう、今日は待ちに待った日だった。二週間もの海外出張を終えて、高山がこの家に帰ってくるのだ。  侑人はソファーに腰掛け、そわそわと落ち着かない心地で時計を見たり、意味もなくスマートフォンを確認したりした。  時刻は夜の十時を回ったところ。すでに飛行機は発着しているはずだが、まだ連絡はない。こちらからメッセージの一つでも入れようかとも思ったけれど、なんだか催促しているようで気が引けてしまう。  と、思い悩んでいたそのときだった。高山から通話がかかってきたのは。 「も、もしもしっ――高山さん、こっち戻ってきたの?」  食い気味に出れば、通話越しに苦笑する気配がした。 『出るの早いな。待ちきれなかったのか?』 「なっ!」  図星を突かれて言葉に詰まる。かたや、高山は疲れを感じさせるような声色で続けた。 『けど悪い。しばらく前に帰国したんだが、ちょっと仕事が立て込んでてな……今日は帰れそうにない』 「え?」  申し訳なさそうに告げられた言葉に、舞い上がっていた気持ちが一瞬にしてしぼむ。  本当は今すぐにでも会いたかった。出張から帰ってきた高山を、誰よりも労ってあげたかった。けれど、ここで駄々をこねても迷惑になるだけだと思い直し、なんとか平静を装って相槌を打つ。 「そう、なんだ」 『待ってなくていいから、今日のところは寝ててくれ。そっちは明日も仕事だろ?』 「……うん。高山さんこそ、無理して体壊さないよう気をつけて」  納得はしているつもりだが落胆を隠しきれない。通話を終えると、侑人は深く息をついてベッドへと寝転がった。

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