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おまけSS 卒業式とこれからも(2)

「よ、ただいま」 「高山先輩、一人ですか?」 「なんだ、俺だけじゃ不満か?」 「べつに……」  侑人は素っ気なく答えながらも、どこか落ち着きがないように思える。  もしや本城の動向が気になるのだろうか。以前と変わらぬやり取りをしていたように見えたが、まだ思い悩むところがあるのかもしれない。  しかし、ここで追及するのはやめておくことにした。それよりも、もっと他の話がしたかった――今日でこの学び舎とも別れを告げるのだから。 (そういや、この先どうなるんだろうな)  春から実家を出て、大学生としての新生活が始まる。なにも遠く離れてしまうわけではないが、ここしばらくのようにはいかないだろう。  こうして顔を合わせるのも、まだ数えられる程度。変わらぬ付き合いをしてくれるのかどうか、不安がないと言えば嘘になる。  と、柄にもなく感傷に浸っていたら、「えっと」侑人が小さく口を開いた。 「た、高山――」 「ん?」 「いや……高校卒業したんだし、同じ部活でもないのに『先輩』って言うの、おかしい気がして。これからはそんな感じで呼ぼうと」  思いもよらぬ突然の宣言に、高山は目を瞬かせる。侑人の言葉はまだ続いた。 「その、大学行っても、また……」  そこで言葉を詰まらせてしまう。  ただ、言わんとしていることは大体察しがつく。高山はフッと笑みを漏らすと、侑人の髪をくしゃりと撫でてやった。 「ああ。その気になったらいつでも連絡しろよ。俺もそうするからさ」 「……っ、だから頭撫でんな」  案の定、侑人は顔をしかめてみせるのだが、こちらの知ったことではない。いい気になって、そのまま耳元で囁くように告げる。 「それに、今度は一人暮らしだからな。好きなだけ家でヤれるぞ」  すると、侑人はたちまち顔を赤くさせた。高山の手を払い除けて、慌てて距離を取ってくる。 「ばっ、バカ! 最悪!」  こういったところが、本当に可愛らしく思えてならない――高山はくつくつと笑いながら、今後のことに思いを馳せた。 (『大学行っても、また』か……)  所詮は体の関係。それがどれほど薄っぺらいものか、経験上知っているつもりだ。  言ってしまえば、いつまで続くかもわからない。けれど許される限りは、自分が侑人の隣にいたいと心から思った。 「とりあえず、落ち着いたらすぐ連絡寄こすよ。それでいいか?」 「………………」  侑人が気恥ずかしげに頷くのを見届けてから、「またな」と別れを告げる。  そうして高山は、晴れやかな気分で高い空を見上げたのだった。

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