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おまけSS 無自覚な寂しがり(?)
「じゃあ、高山さん。帰り気をつけて」
この週末は高山のマンションではなく、自宅で恋人らしいひと時を過ごした。
二人で過ごす時間はあっという間に過ぎて、時刻は二十時すぎ。侑人は玄関まで出向いて高山のことを見送る。
高山はどうしてだか、こちらを見て動きを止めていた。
「そんな顔されると、帰りづらいんだが」
「え?」
「それだよ。『帰らないでほしい』みたいな顔」
「ちょ、なに言ってんだよっ!?」
「……無自覚か」
困ったように小さく呟き、高山は頭を撫でてくる。
「まあいいさ、また連絡する。戸締りちゃんとしろよ」
そうして、軽く口づけを交わしてから部屋を出て行く。
その後ろ姿を見送り、侑人は一人玄関の鍵をかけたのだった。
(俺、そんな顔してたかな)
いまいち自覚に乏しく、小首を傾げてしまう。だが、先ほどまで高山と一緒にいた部屋を見渡すと、不意に物悲しさを覚えた。
「べつに、すぐ会えるし……洗濯でもしよ」
自分に言い聞かせるようにして、洗面所へと移動する。
洗濯かごを覗けば、二人分の衣類やタオルが入っていた。そんななか、何の気もなしに手に取ったのは、高山が寝間着として着ていたTシャツだった。
「うわ、でかっ」
互いの部屋に泊まることが増え、いつの間にか相手のもとに私物を置くようになった。これもその一つである。
自分のものとは明らかにサイズが違うし、何よりも――、
「………………」
ふわりと高山の匂いが鼻をかすめる。途端に、胸の奥で甘い疼きを感じた。
(高山さん――)
思い切って鼻先に押し当てると、なんの躊躇いもなく、すんすんと息を吸ってみる。
柔軟剤の匂いに混じった体臭。そして、染み付いた煙草や香水の匂い――。
なんだかたまらなくなって、そのまま皺になるのも厭わずに、ぎゅうとTシャツを抱きしめる。
まるで、高山に抱きついているかのようだった。もっともっと、とより強く匂いを嗅いでしまう。
「ん、っ……」
それから数分程度だろうか。侑人が我に返ったのは、自分の口から吐息が漏れだしてからだった。
「わああああーっ!?」
慌てて顔を離すと、勢いよく洗濯機に放り込む。
一体何をしていたのだろう。侑人は顔を真っ赤に染め上げ、羞恥と混乱のあまりどうにかなりそうだった。
「ああ、くそっ」
口元に手を当て、その場にしゃがみ込む。
もしかしたら、本当に『帰らないでほしい』といった顔をしていたのかもしれない。
さっきまで会っていたのに、もう高山に会いたくなってる自分に気づいて、居たたまれない気分になったのだった。
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