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おまけSS それぞれの幸せの形(2)

「どうした? 慣れないことして疲れたか?」 「あ、いや」  言葉を濁しつつ、静かに缶ビールへと手を伸ばす。  これも高山の気遣いなのだろう。ビールに口づけながら視線を向けると、高山もまた黙って缶ビールを傾けていた。  その横顔を見つめながら、侑人はぽつりと呟く。 「高山さんって、子供好きだよね」 「ん?」  ああ、と高山は軽く相づちを打つ。 「まあ、好きな方かもな」 「……そっか」 「おい、また変に考えこんでるだろ」  図星をさされて、思わず視線を逸らしてしまった。その反応で察したらしく、高山は小さくため息をついた。 「前に言っただろ。俺は侑人が傍にいれば、それでいいって」 「でもさっ、高山さんバイなんだし、俺と付き合ってなかったら――」  きっと、まったく違う人生を歩んでいただろう。異性と結婚し、子供をつくって――ごくごく普通の幸せを手にしていたかもしれない。  そんな考えを遮るようにして、高山がこつんと額をぶつけてくる。 「こーら。間違っても、そんなこと言うもんじゃねえよ」  声色からして、少し怒っているのがわかった。  侑人は胸が締めつけられるのを感じながら、「ごめん」と素直に謝る。先ほどの発言は、さすがに自分でも無神経だと思えた。 (俺ってば、何やってるんだろう。高山さんの気も知らないで……)  頭を抱えて反省というべきか、後悔する。  高山はこちらの心情を察したのか、困ったように笑ったあと、そっと唇を重ねてきた。 「わかればいいよ。けど……俺の十年ぶんの片思い、あんま甘く見んなよな」  ふっと表情を緩めると、今度は頬に口づけてくる。そのまま顔中にキスの雨を降らされて、侑人はくすぐったさに身をよじった。 「ちょっと、高山さんっ」 「俺は、今が幸せだよ。それともお前はそうじゃないのか?」  間近で見つめられ、侑人の心臓がドキリと音を立てる。 「そんなの、俺だって幸せだよ」  そう返せば、ほっとしたように高山は笑った。 「なら、何の問題もないな」 「でも高山さん、子供が好きだって」 「なに言ってんだ。この先、いくらだって面倒見られる機会はあるだろ? 家族だとか、あるいは近所の子だとかさ」 「あ……」 「それに、本気で子供がほしいってなったら、代理出産とか養子も考えたっていいかもな」 「な、なにもそこまでっ」 「あくまで可能性の話だろ、今の日本じゃ難しいだろうし。だから、もしそんなふうに思えるときがきたら、また一緒に考えようぜ?」  言って、高山は侑人の頭をぽんぽんと叩いてきた。  口調こそ軽いが、その瞳はどこまでも真っ直ぐなもので、侑人は何も言えなくなってしまう。真摯な想いがひしひしと伝わってきて、胸があたたかなもので満たされるのを感じた。 「ほんと――高山さんといると、幸せになれる」  ぽつりと呟いて、高山の肩にもたれかかる。いつものように頭を擦りつけると、高山がふっと笑みをこぼし、優しげな手つきで撫でてくれるのがわかった。 「ねえ、高山さん」 「ん?」 「また機会があったら、俺も今日みたいについていって……いい?」 「ああ、当然だろ」  俺らだって家族なんだから――そう答える高山は幸せそうで、侑人はますます胸がいっぱいになるのだった。

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