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おまけSS もしも、パパになったら…

 何ということはない平日の朝。今日も今日とて食卓を囲む、の姿があった。 「もぐもぐ上手だね、(あさひ)」  侑人が笑顔で話しかけているのは、高山旭。高山――いや、健二との間にできた大切な一人息子だ。 「ゆうーっ」 「はーい?」 「おにぎに!」 「うん、おにぎり。美味しい?」 「おいちい!」  旭は満面の笑みを浮かべている。その口は食べかすでべったりと汚れており、侑人はティッシュで優しく拭いながら苦笑をこぼした。 (もうすっかり自分で食べられるようになって……子供の成長って早いなあ)  一歳半の旭は、ちょうど離乳食から幼児食へ移行した頃合いだ。今では手づかみのほかスプーンを使い、自ら進んで食べる意欲を持つようになった。  口や手を汚しながらも、楽しそうに食べてくれるので、こちらもつい嬉しくなる。食事が終わったところで「ごちそうさまでした」と手を合わせてやると、旭はきゃっきゃと足をばたつかせた。  その向かいでは健二がコーヒーをすすっており、微笑ましげにこちらを眺めている。 「さっきから、なに見てるんだよ?」 「いや、あまりに可愛いと思ってな」 「旭が可愛いのはわかるけどさあ」 「なに言ってるんだ。お前と旭、二人して可愛いに決まってんだろ」 「っ、もう……そんなゆっくりしてると遅刻するよ?」 「おっと、いけね。もう時間か」  時計を確認し、健二は残りのコーヒーを一気に飲み干した。それから席を立ち、いそいそとジャケットに袖を通す。  侑人もまた、旭を連れて玄関へと向かった。 「今日、帰りは?」 「たぶん定時で上がれると思う。何か買い物あったら、LINEに送っといてくれ」 「わかった。いつもありがと」  通勤鞄を健二に渡すと、旭を抱きかかえていつものように見送りをする。  健二は旭に目線を合わせて、大きく手を振った。 「旭、パパお仕事いってくるな。侑人のこと頼んだぞ」  旭はきょとんとした顔をしていたが、次の瞬間には声を上げてぐずりだしてしまった。「わあぁーっ!」と声が響くなか、侑人はあやすように声をかけた。 「ほら、旭もいってらっしゃーいって」  すると数秒のうちに、旭は涙ぐみながらも小さな手を振り返してみせる。 「バイバイ偉いね」と口にすれば、何度もこくこくと頷くものだから、なおさら愛おしくて堪らなくなった。健二とともにクスクスと笑い、あらためて言葉を交わす。 「いってらっしゃい、パパ。気をつけてね」 「ああ、いってきます」  健二は旭の額にキスしたあと、侑人の唇にも軽く口づける。  こちらもお返しに「いってらっしゃい」のキスをして、微笑みを浮かべた。 「えへ、健二さん大好き」 「俺もだよ、侑人」  恥ずかしいことこの上ないが、これがいつもの朝の風景だ。  こんな日々がずっと続けばいい――しみじみとそう思いながら、愛おしい夫の姿を見送ったのだった。       ◇  ――とんでもない光景を見てしまった。  侑人はガバッと布団を跳ね除け、勢いよく飛び起きる。 「ゆ、夢……?」  辺りを見回せば、見慣れた寝室だった。隣には静かに寝息を立てている高山の姿があり、勿論のこと子供の姿などない。 (うわ、びっくりしたあ。いろいろツッコミどころ満載だし、俺ってああいうキャラじゃないだろ)  夢だとわかってほっとする。内容を思い返すと、あまりに甘ったるくて、我ながら呆れてしまうくらいだ。  が、あんな夢を見るだなんてどうかしていると思う一方、胸がドキドキと高鳴っているのも事実だった。 (……俺と健二さんの子供、か)  高山のことを「パパ」「健二さん」と呼び、二人の間に愛らしい子供もいて――夢の中の出来事とはいえ、あの光景はじつに微笑ましかった。  侑人は表情を和らげ、幸せ気分を味わいながらベッドを出る。 「おはよう、健二さん」  目を覚ました高山にそう挨拶してカーテンを開ければ、眩しいくらいの朝日が差し込んできた。

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