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第1章⑪

 平田の提案に、晴は正直、気乗りしなかった。 ――女のくせにずい分、偉そうで生意気だな。  平田が示す奔放なーーもっと言えば上から物言うような態度が、晴は気に入らなかった。  口にこそ出さなかったが、「そんなんじゃ将来、嫁のもらい手に困るぞ」と、嫌味の一つでも言ってやりたい。  それでも――。 「かまわない」  晴は提案を受け入れた。平田の信用を得られるかは、大した問題ではない。  けれども、できることなら、久太郎には自分の話を信じてもらいたかった。 「では早速、鈴木君。君が着ていた服、見せてくれるかい」 「あそこに置いてある」  晴は敷きっぱなしの布団の枕元を指差した。  軍服の上着や、飛行服、それに手袋などを、平田は仔細に眺めた。 「――第二種航空服。それに飛行手袋、帽子、眼鏡に、縛帯と…うん。君の名前と階級も書いてある。落下傘は?」 「ここに来た時には、もうなくなってた」 「君が最後に出撃した日時は?」 「一九四五年六月二十六日だ」 「なるほど。それなら、夏用の第二種航空服で矛盾はないな。ところで、拳銃が見当たらないようだが、携帯していなかったのかい?」 「……」  晴は黙って立ち上がると、玄関先の靴箱へ向かった。箱と土間の隙間に手を突っ込む。取り出した物を見て、久太郎と平田が、それぞれ目をみはった。 「ちょ、ちょっと待って! それ、本物!?」久太郎の声が裏返る。 「…なんと。十四年式拳銃か?」  頬を紅潮させ、平田が舌なめずりした。 「弾丸は?」 「抜いてある。だから、暴発の心配はない」  そう言う晴に向かって、平田が当然のように手を差し出す。晴は拳銃を他人に(特に女に)、触られたくなかったが、結局、渡した。  受け取った平田は、それを試すがめつ眺めた。 「…本物っぽいな、惜しい。解体できたら、もっと正確に確認できるのに」 「軍人でもないのに、ずい分、詳しいな」 「私は元々、旧軍に興味があるんだ。卒業論文のテーマも、できれば軍隊関係のものにしようと思っている。指導教官は、あまりいい顔をしないけどねーーほい、返すよ」  平田は拳銃を晴の手に戻した。晴はそれをまた、靴箱の下に置きに行く。  その間に、持参したリュックサックの中から、ノートパソコンを取り出した。 「では質問にうつるよ。鈴木君。君、生年月日は?」 「大正十五年十一月五日」 「本籍は?」 「広島県沼隈郡。瀬戸内にある壱ノ日島だ」 「少年飛行学校の出か?」 「ああ。第十四期だ」 「今の――というか、一九四五年六月時点での所属は?」 「伊丹飛行場の第××飛行戦隊……なあ。さっきから、指で叩いているが。それ、タイプライターか?」  晴の疑問を解いてくれたのは、久太郎だった。 「平田さんが使っているのは、パソコンだよ。スマホと同じで、色々なことを調べられる。ソフトを入れて、文章を書いたり、表計算したり、絵を描いたり、それらを保存したりーーまあ、たくさん機能がついてる」 「へぇ。この時代の人間は、みんな機械を持ち運んでるんだな」  二人のやり取りなど、なかったかのように平田が言った。 「鈴木君。君の部隊の隊長の名前は?」  今までの問いと異なり、晴が答えるまで少し、間があった。 「…丸山洋次大尉だ。その前に隊長だった如月久弥大尉は、六月一日に戦死された」

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