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第5章⑪

 弁当を食べ終えた後、久太郎は仏間の様子を見に行った。適当なところで容器やごみを片付けて、食後のコーヒーでも出そうと思っていた。また叔父や叔母たちと全く話をしないというのも、後ろめたかった。  幸い、祖父の遺産についての話し合いはひと段落ついたようだ。久太郎がふすまを開けた時、久美は弟の久治を相手に自分の子どものことを話していた。 「大樹くん、来年受験だっけね」 「ええ。今日も塾の夏期講習。大変でしょ。でも本人も浪人したくないって言ってるし。今が正念場よ」 「絢香ちゃんは? お盆は帰ってこないの?」 「そうなのよ。お盆くらい帰ってくるように言ってるのに、ずっと東京にいるって。しょうがない子なんだから…」  久美はため息をつく。 「あなたのところは子どもがいないから、気楽でいいわよね、久治」 「はは。いなくても、忙しいことに変わりはないよ――お、久太郎君」 「失礼します。お弁当、どうでしたか」 「うまかったよ」 「まあまあね。こんな辺鄙なところじゃなきゃ、お店に食べに行けるんでしょうけど」  久太郎は叔父と叔母の対面に座った。雑談しながら、場を眺める。  久美の夫の義明は、久紀と話している。久治の横にいる妻の香絵は手持ち無沙汰な様子だ。久美の子ども、久太郎にとっての従姉弟が来ていたら、まだそちらと話ができただろうが。 「ーー久太郎君、今、大学三年生だっけ。もう就活は始まってるのか?」 「ぼちぼちですね。まだ、どんな会社があるか、調べ出したところです」 「やっぱり上京する気? どんな企業受けようと思ってるの?」  久美が根掘り葉掘り聞いてくる。久太郎は少々、辟易して、曖昧に笑ってやり過ごした。  就職を一応、考えているが、本心を言えば大学院に進んで勉強を続けたい。しかし、両親は多分、賛成しないだろう。大学受験の時、久太郎が文学部を選ぶことにも反対したくらいだ。 ーー文学部なんか行って、将来どうする気だ、と。  働くとしても、どんな仕事に就くべきか――久太郎は目下、考えているところだ。  それこそ、祖父が生きていれば、進路について悩みを色々、聞いてもらえただろうが。 「…ところで、久太郎君。エリカさん、ずっとアメリカにいるの?」  久美が、久太郎の母について聞いてきた。 「ええ」  久太郎が短く頷く。この場で母のことには、あまり踏み込まれたくない。  しかし叔母は久太郎の内心を知ってか知らずか、まったく容赦がなかった。 「結局、あの人、うちの父の葬式にも、その後の四十九日や一周忌にも来なかったわね。ちょっと、どうかしてると思うわ。あなたのお母さんだから、あんまり悪く言いたくないけど。ただ、長男の嫁としてあまりに自覚がないし、不義理じゃない……――」  久美の非難を、久太郎は口を閉ざして聞き流す。  言いたくないと言いつつ、叔母は久太郎に会うたびに、エリカが友弥の葬儀に参列しなかったことを蒸し返す。もう、怒りも湧いてこない。久太郎自身、母が葬儀に来なかったことには、恨みに似た感情を持っていた。  祖父母や叔母といくら折り合いが悪くとも、葬儀くらいは顔を見せて欲しかった。 「――そろそろ、コーヒー持ってきますね」  久太郎は口実をもうけて中座する。立ち上がった時、祖父の写真が目に入る。  今日は、亡くなった友弥を偲ぶ日のはずだ。  しかし、それとあまりにも関係のない話題ばかりで、少々気が塞いできた。

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