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第6章⑫

 唇を吸う内に、唾液が溢れて紅く濡れそぼってくる。互いの吐きだす息に、クチュクチュと粘性の音が混じり出す。  「もっと欲しい」と思った矢先、晴は久太郎の手で布団に押し倒された。 「…浴衣、着たはいいが、すぐに脱がされる羽目になったな」 「実は、脱がすのもやりたかったんだ。はだけた格好も、そそられる」 「この数寄者(すきもん)が…ひゃっ…!」  腰から背中のあたりを撫で上げられて、晴は声を洩らす。組み敷かれ、浴衣をはぎ取られ、ほとんど一方的に愛撫される。だんだん息が上がり、自分の意志と関係なく、喘ぎ声が口から漏れ出す。  さんざん焦らされ、もっと強く快感を得られるところを撫でてくれと懇願しそうになった時、耳元で久太郎がささやいた。 「今から、大事なところに触るから。うつ伏せになって」  言われた晴は、火照った身体を大儀そうに回した。  その間に、久太郎が枕元に置いていた瓶を傾け、中身を片方の手のひらに出した。  閉じた足を、心持ち広げられる。尻をつかまれ、普段、自分以外の人間が触れることのない場所があらわにされる。晴が恥ずかしさを覚えるより先に、水のりのような粘り気のある液体が、そこに垂らされた。 「ふぁっ…!」  冷たくないよう、久太郎は手のひらで少し慣らしたようだ。それでも、晴は変な声が出るのを抑えられなかった。  敏感な孔のまわりを、指で何度もくりかえし押される。そうやっている内に、わずかに広がった隙間から、久太郎の濡れた指先が差し込まれた。 「んっ…ああ……! やぁ…」  ヌプヌプと少しずつ、虫が這うように指が沈み込んでくる。 「――大丈夫? 痛くない?」久太郎がささやく。 「い、痛くはない。ないけど……なんか変な感じで……うぅ…」  晴の身体の内側で、久太郎が指をぐるっと回す。  内側から押し広げられ、そこにまた先ほどのぬるりとした液が足された。外側だけでなく、中にも入念に塗り込んでいるのが、感触で分かる。  晴をなだめるためだろう。久太郎は時折、脇腹や太ももを撫でたり、柔らかいところにキスをする。  それでも、晴の気が完全にまぎらわされることはなかった。  閉じたところが、人為的に開かれていく。その感覚は晴にとって未知のもので、正直に言うと少々、恐かった。  目をつむり、うめきながら晴は耐えた。自分の身体が、どうなっているのかよく見えない。ただ、久太郎が分かっているのならそれでいいと、半分やけっぱち気味に考える。  指が二本入り、そのあと時間をかけて、三本入るようになった。 「晴くん…」  久太郎が指を全て抜く。背中と布団の間に久太郎が腕をさしこむと、そのまま晴の身体を亀のようにくるっとひっくり返した。  淡い闇の中、晴は仰向けの状態で、久太郎の裸身を見上げた。  大きくて、たくましい男だ。腕も胸も、腰も太ももも足も、晴よりずっと筋肉がついている。それでいて、内面は凪いだ海みたいに穏やかだ。今は緊張で、ほんの少しだけ顔が張りつめているが。  久太郎が小さな袋を破る。中身が何か気づいて、晴がつぶやいた。 「今も『突撃一番』とか『鉄兜』って名前あるのか?」 「え、兜…?」  困惑する相手に、晴がおざなりに告げる。 「避妊具」 「あー…どうだろう」  久太郎は、律儀に記憶をたどろうとする。そのひざを晴は軽く蹴った。 「真面目に考えるなーーそれより、大事なことあるだろ」  晴がちらりと久太郎の股間に目をやって、すぐにそらした。 「早く、してくれ…」  相手がごくりとのどを鳴らす音が、晴の耳に伝わった。久太郎は薄いゴムを広げ、ガチガチになったものを覆う。それを見届け、晴は目を閉じる。  不安を気取られたくないーーそう思っていると、久太郎が顔を寄せてきた。  口を吸われ、優しい手つきで顔の輪郭を撫でられた。晴のことが、この世で一番大切な宝物だとでも言うように。  ゆっくり、久太郎の手で両足を開かれる。晴が息をつめた直後、それが来た。 「いっ……! あ、あぁぁーー…!」  晴の方が狭いのか、久太郎のものが大きいのか。きちんと孔を広げたはずなのに、つながった部分が火に触れたみたいに、熱い痛みが走った。

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