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第8章⑨

 飛燕の右翼が見つかったのは、久太郎の祖父母の家から、ほんの数キロしか離れていない場所だった。  道路で行けるところまで、久太郎はバイクで行った。それから平田と合流し、彼女の父親の秘書や、地元の消防団員、登山家、郷土史家、市の考古遺物担当者、さらに大阪から来た博物館の学芸員と共に、山を三時間かけて登り、現場へ辿り着いた。  原型を保っていたという飛燕の翼は、すでに錆びてボロボロの状態になっていた。それでも近づくとかろうじて、日の丸の塗装が識別できた。  皆がそれを取り囲んでいる間、平田は久太郎を少し離れた場所へ導いた。 「――見えるかな、久太郎君。ここの地面。少し下の方に、炭化した層が見えるだろう。昨日、金属探知機を使って調べたら、激しく反応があった」  地面を見つめる久太郎に、平田は言った。 「…私が言っている意味、分かるな?」  久太郎はうなずく。  ここで、大きな火災があった。そして地面の下には、金属製の何かが埋まっている。  晴の操縦していた飛燕は、この下に眠っている。おそらく、晴本人と一緒に――。 「――久太郎」  セミの鳴き声に混じって、懐かしい声が聞こえた。  泣きながら、久太郎は微笑む。 「笑って迎えてほしい」と手紙に書いてあったから、そうした。 「――おかえり、晴くん」  久太郎の呼びかけに応えるように、夏風がザァっと吹いて、木漏れ日を揺らした。  目を閉じた久太郎は、誰かの存在を感じようとするように、その風を全身で受けとめた。 (終わり)

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