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第10話
影山は全速力で走った。
電話で言われた言葉を思い出しながら。
「影山くん!今すぐに来てくれ!
孝支が…孝支が!もしかしたら目が覚めるかもしれないんだ!
だからっ!だからっ!」
最初は信じれないと思った。
ずっと願っていたから。
目が…覚める。そしたら、告白する。
心に決めたことだ。
でも、もし、もし意識不明までいったのだから記憶喪失になっていたら。
大丈夫、菅原さんのことだ。
走って走って走りまくった。
菅原さんに会える。
それだけを楽しみにしていた。
生きててよかった。
― ― ―
なにかに呼ばれる夢を見た。
誰だろう。聞いたことあるような、ないような。
「…らさん!がわらさん!目を覚まして下さい。
俺には、あんたしか居ないんです。」
光も何も無い、真っ暗な場所。
でも、そいつの周りだけは輝いていて。
手を伸ばすと空気のように溶けて消えた。
懐かしいこの声。誰だっけ。
まぁいいか。
― ― ―
親の許可を得て
勢いよくドアを開けた。
「菅原さん!」
菅原さんはまだ寝ていた。
俺は祈るしかなかった。
菅原さん、起きて。目を覚まして。
お願いだから、俺を置いてかないで。
不思議と涙が出てきた。
あぁ、そうか。
これが悲しいっていう感情か。
目を瞑っている菅原さんは
すぐに起きるんじゃないかというくらいに
安らかな顔で寝ていた。
最悪の場合、このまま眠りつづけて死ぬ。
目覚めても、もしかしたら記憶障害があるかもしれない。
医師から言われた言葉が頭から離れなかった。
もしそうなったら?
おれのこと、忘れるのかな。
また一人ぼっちになるのかな。
涙を止めようとしても色々な感情が
溢れ出てきて止めれなかった。
菅原さん、目ぇ覚ましてくださいよ。
俺、貴方が居てくれなきゃ…。
もう、生きてけない…から。
自然に手を取っていた。
握り締めたら、握り返しそうで。
でも、反応は帰ってこなかった。
― ― ―
誰か居る。
この声、さっきと同じだ。
誰だっけ。この温もりは。
なんでだろう。心が安らぐのは。
思い出しそうで思い出せない。
〜 〜 〜
川が見える。綺麗な花が沢山ある。
優しそうなおばあさんに聞くと
天国だと言った。
ここが天国か。
そして、
君はまだやり残したことがあるだろう?
ここに来るのはまだ早い。
はやく帰りなさい、手遅れになる前に。
― ― ―
「早く、目ぇ覚ましてくださいよ」
あぁ、なんだ。
この声、温もりは影山だったのか。
白い天井。
ピッピッピッピッと一定のリズムで流れる音。
俺は何でここに?
…確か影山と帰っていたはずなのに…。
……トラックが来たんだ。
白い天井が見えた。
すると、見たことある頭が見えた。
横を見ると影山が泣き寝入りしていた。
「…か、げやま?」
声をかけても、起きずに寝ていた。
繋がれている手に力を込めると、ピクっと
反応が来た。
目を擦りながら起きる影山。ホッとした。
影山に何も無くて。
眠そうにこちらを見ると目を見開いていた。
「…ん。……え?す、がわら、さん?」
「おはよう、影山。心配かけたな」
「す、がわらさん。菅原さん!良かった。目、覚ましてくれて。もし、目が覚めなかったら俺、俺…。」
「もう大丈夫だから、ごめんな」
「もう俺の目の前から消えないでください」
「分かった。約束するよ」
菅原孝支、3時26分 再び目覚める。
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