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第二話
母との通話を済ませ、キッチンへ向かう。料理の腕に自信はないが人並に食べられるものは作れるはずだ。何を作るのか何も考えていないが冷蔵庫を開けてみればきっと何かアイディアが生まれる。そう思って蒼芭はガチャリと冷蔵庫の戸を開けた。
「そうだった……キャベツが高くて買うの諦めたんだった。」
冷蔵庫を開けるその数秒でさえ、浮足立っていた蒼芭に現実はひどく残酷な事を仕向ける。ほとんど空っぽの冷蔵庫には昨日セール品になっていたミンチと納豆、そしてお茶。その限界っぷりには目をつむりたくなるものだった。
「で、でも!ハンバーグなら作れるし……いつものモヤシ丼よりはいいよね!」
一人で冷蔵庫の前で佇むのもどこか悲しくて。無理やりポジティブな思考に切り替える。それが蒼芭のよいところの一つだ。
* * * *
一パックで作れる量はそんなに多くない。その事を念頭に置きつつ、蒼芭はハンバーグを調理していた。もちろんトマト缶なんてものはないのでケチャップで代用したソースを作る。きっと両親にピンチだということを伝えれば、手助けはしてくれるだろうが蒼芭はできるだけ両親の負担を増やしたくなかった。大学に行くのだって蒼芭の人生で初めてのわがままだったのだから。
(よし、これでおっけー。あとは盛り付けだけだ)
思うことはいろいろあるが、ひとまず食事を確保するだけの余裕が蒼芭にはあった。焼けたハンバーグを皿に盛り付け、常備してあるモヤシを添える。質素だが蒼芭にはこれだけで喜べるものだった。
「いただきます」
静かに合わせた手に大きな感謝を添えて。蒼芭は早速箸を持ち、ハンバーグに切れ込みを入れた。
* * * *
食器を片し、風呂に入る準備をする。小さなクローゼットから着替えを出して、さほど距離のない洗面所へと向かう。その途中でさえも心なしか浮足立っており、楽しくないと、自分に嘘をつくのは不可能だった。満腹感を得たことで先ほどよりも幸福度が格段に上昇した。
「ふんふふ~ん♪」
抽選に当たったときは絶望感と虚無感が胸を覆いつくしたが、今はそんなことなかった。ただ純粋に楽しみたいな、うれしいなというプラスの感情でいっぱいだ。
「大阪か~ここからは遠いし、地元からも微妙な距離で行く機会なかったんだよなぁ」
家に誰もいないことをいいことに、大きめの独り言を言う。表情筋が緩んでしまって、しまりのない顔が鏡に映る。その瞬間、蒼芭は我に返った。
「何浮かれてんの、僕。」
はたから見ればただのボッチ旅行だ。券は二枚あるのに行くのは結局一人だけ。大学に友達の一人や二人いたならば、話は別かもしれないが生憎、蒼芭は友人作りのポテンシャルは皆無だ。洗面所の小さな鏡から目を逸らすように蒼芭は浴室へと入った。
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