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第1話-3
この後遥人が湯を使うだろうと考慮して先に身体を清めていく。
「あっ、シャンプー……」
もう40代、愛用しているシャンプーはオヤジ臭撃退の薬用炭が入ったスカルプケアの優れモノだ。それが切れていることを思い出す。
「買い置きってあったか?」
だがボトルを手に取ればずっしりと重量感があり、己の記憶を疑う。確かにこの前使おうとして残りを無理矢理水に溶かして出したような記憶が……。
「あーーーーー」
記憶が確かなら気付いた遥人が詰め替えてくれたに決まってる。まだ二十台の彼が使わないものにまで気付いてくれていることに感心するとともに気落ちする。これでは自分が面倒見ているのではなく、生活全般の面倒を見てもらっている状況だ。金銭面以外は。
「俺ダメダメすぎるだろ」
洗い場でしゃがみこんで頭を抱える。
食事も作れないし細かい気遣いができない自分と、色々と目端が行き届いている遥人とでは生活能力に雲泥の差があって当たり前なのに、年上だからか、つい張り合って勝とうとしてしまう。
今のところ惨敗なのに。
「とりあえず、洗ってしまうか」
油の滲んだ髪を綺麗に洗い流し同じブランドのボディソープで身体を磨き上げる。風呂場がハッカの匂いに満ちるほど泡だらけにしてから手桶で温かいお湯を頭のてっぺんから流していく。面倒だからトリートメントなどといったお洒落なものは使用しない。
犬のように頭を振って水気を飛ばしてから湯船に浸かる。
「っんぐー、きもちいい!」
久々の熱いお湯の中でいっぱいに伸びをして筋肉をほぐしていく。無意識に強張っていた肩から力が抜けていくのを感じた。
「やっぱ風呂はサイコー」
なら毎日入ればいいのにと心の中で突っ込む。
汚れも疲れも洗い流した気持ちで風呂から上がると、もう食卓には出来上がったシチューが湯気をあげて自分を待っていた。
「なんだ、もうできたのか?」
「煮込むだけですから。ちゃんと身体洗いました? もしかしてお湯に浸かっただけとかじゃないですよね」
「……ちゃんと洗った」
「どれどれ?」
遥人が近づいてきて濡れた髪に鼻を近づけてきた。
「あ、ちゃんとシャンプーの匂いしてますね、よしよし」
「ガキ扱いするな」
頭を撫でてこようとする手を跳ねのけようとするのを避け、遥人の腕が首に回される。
「先ご飯たべててください、風呂に行ってきますね。その後の時間、くれますよね」
何を意味しているのか解って、隆則は顔を熱くした。そこにチュッと音を立てたキスをして余裕の足取りで遥人が風呂場へと向かっていった。
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