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第3話-2

 チェーン系だからどこにでもあるようなイメージだが、会社の傍には存在してなかったなと思うと妙に食べたくなった。特別美味しいものではないはずなのに無性に食べたくなる瞬間というのが訪れ、フラフラの身体のまま扉を開いた。 「いらっしゃいませー」  誰もいない店内から元気な声が飛んできた。もう日付も変わった今にこんな元気な人間がいるなんて信じられず、声の主を探した。狭い店内で客が座る席はすべて空いており、でも人の姿は視界にない。 「え……?」  もしかしたら食券機から出てきた声なのだろうか。今の食券機は扉の開閉に反応してこんな元気な声を出すのが主流なのだろうか。 「あ、どうも……」  死んだ脳のまま食券機に頭を下げポケットから財布を取り出し定番の牛丼を注文しようとお金を入れるが、なぜかはじき出される。何度も何度も突っ込むがそのたびに拒絶するように戻されてしまい、入店自体を拒絶されているような気になる。元気に歓迎してくれたのにここで拒否か……自分は結局拒絶される人間なんだと思うと、もう店から出てちょっと先にある川にでも飛び込んでしまおうかという気持ちになってきた。  そうだ、電車がだめだったら川がある!  ちょっと水量が少ない気もするが、橋から落ちたらそれだけで昇天できるかもしれない。  なんとなく今の環境から逃げ出す方法がそれしかないように思えて、違う意味で隆則の目が輝いた。  機械にまで拒絶されてしまったのならしょうがない。仕事も頑張っても頑張っても終わらなかったしいい加減歳だし、買ったままほとんど帰れないマンションの支払いも終わってるし、思い残すことなんて何もないじゃないか。  気分は「そうだ、〇都に行こう!」よりもノリノリな「そうだ、天国に行こう!」になり始めていたその時、背後からニュっと腕が伸びてきた。 「お客様、これお札じゃないですよ」  耳に心地よい穏やかな声が鼓膜を震わせた。 「え?」  よく見れば、さっきからずっと差し込んでいたのは財布に入れっぱなしの宝くじだ。なぜこれを紙幣と間違えて何度も入れていたのか自分でもわからないし、機械が必死に弾き返してくるのも当たり前だ。 「あ、すみません!」  慌てて後ろを向き、隆則は固まった。 (やばい、かも……)  店の制服を身に着けた長身の若い男は、がっしりとした体格が服越しでもわかり半袖のポロシャツから伸びた腕は筋肉質で逞しかった。だが、隆則の動きを止めさせたのはドンピシャなまでに自分好みの顔だ。

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