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第3話-3

 くっきりとした二重の眦が少し下がって優しい雰囲気を醸し出し、高い鼻に厚めの唇は、どこからどう見ても日本人離れした容姿。まるでどこかの芸能人のようだ。どうしてこんな人間がこの都心から少し離れた深夜の商店街にいるのだろう。この少しだけ日本人離れした顔と長身で筋肉質というのが隆則のストライクゾーンどんぴしゃだ。隠れゲイで自分の性癖をひた隠しにしているが、こういう男が目の前に現れると抱かれたいと思ってしまうのだ。  すぐに相手から視線を外し、自分に一番無関心な無機物に向き合った。  慌てて宝くじを財布に戻し、千円札を取り出した。 「ゆっくりで大丈夫ですから」 「あ、ども……」  声まで良い……さっきの声の主は彼なのかとようやく動いた頭で理解した。そうだ、機械はこんなにも生々しい声を出すはずがないし、そもそも好感を抱くように女声を使うのが常だ。 (何を勘違いしたんだろう……)  脳がおかしくなっているのをようやく理解して落ち着こうと深呼吸を繰り返しながら、牛丼の並が記載されているボタンを押す。だが出てきたのは小さな紙が一枚、またパネルはどれを選ぶんだというように光り始めた。 (えっ、もっと買えってことかよ……)  仕方がないから、あまり興味のない味噌汁と漬物のセットを押す。それでもまた光る。仕方ないから半熟卵も追加してとボタンを押してから、おつりのボタンを押さなければメニューパネルは灯り続けることを思い出した。 「やべ、買い過ぎた……かも?」  だがキャンセルを言い出せる勇気はない。  近くの椅子に腰かけ食券をテーブルに置くと、さっきの店員がすぐさま回収しに来る。 (無駄にカッコいいな……)  牛丼屋の店員をしているよりももっと派手で実入りのいいバイトでも採用されそうなのに。疑問に思いながらも頭はもう何も考えたくないとばかりに動きを鈍らせていく。なにせ会社で脳はフル回転させたのだ、少しは休ませてやらなければまともに動くわけがない。  ぼんやりしている隆則の前にどんどん商品が並べられていく。定番の牛丼も味噌汁も湯気が立っている。塩味の混じるその匂いを嗅いで不思議とぼんやりとしながらも手を伸ばした。ゆっくりと味噌汁椀を両手で抱え唇に運び、ゆっくりと啜る。 「あったかい……」  そういえばどれくらい温かい食事を口にしてなかっただろうか。もう季節は秋で少し肌寒くなってきたというのに温かさを胃に届けるのは眠気覚ましのコーヒーばかり。それだって始めの一口だけで、後は冷えて苦くなっていくだけだ。コンビニ弁当に関してはどんなに温めてもらったって、箸を付ける前にバカ営業が仕様変更の話を持ってくるのでいつだって冷たくなって少し硬くなった物ばかりを掻き込んでいたように思える。当然味なんて覚えていない。  誰かが用意した温かな食事なんてもう何年も味わっていないことを思い出した。 「味噌汁ってこんなに美味しかったんだ」

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