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第3話-4

 しみじみと呟く。  飽食の時代と言われて久しいが、多忙に次ぐ多忙でその食事ですらまともに摂っていない。こんなチェーン系の牛丼屋の味噌汁を一口含んだだけで、どうしてだろう泣きそうになる。  正直、会社でどれだけ悪態を吐いて己の気持ちを奮い立たせたって本当は限界を感じていた。  もう何年もまともに休みを取得したことがないし、むしろ休日出勤に泊まり込みまでして命を削るようにして働き続けた。  友人も恋人もいないまま気が付けば33歳だ。  生きるために仕事をしているのか、仕事のために生きているのかわからなくなる。家族と疎遠になって久しいし、今はもう生存確認の電話が来ることもない。携帯電話を鳴らしてくれるのは決まって会社かクライアントからだけだ。  こんな生活してて、本当に意味があるのだろうか。  隆則はわからなくなってきた。  システムを組み立てるのは楽しい。何もないところから自分が組み立て上げ理想通りに動けば嬉しくなる。どんどんと増えていく開発言語を覚えるのだって楽しい。出来上がりデバックを繰り返す中でも自分の作り上げたシステムが想像した通りの動作をすれば子供が成長したかのような錯覚に陥て嬉しくなる。  だが手放した瞬間、どうしようもない虚無感に襲われるのだ。なんのためにそれを作り、なんのためにこんなに苦しい思いをしたのかがわからなくなる。それを誤魔化すように次から次へとやってくる仕事をこなすことで気付かないようにしていた。  たった一口の味噌汁で急に心が動くほど、自分は疲弊していたのだ。  それが分かった瞬間、隆則を支えていた何かが崩れていくのを感じた。  アドレナリンが大量放出していたさっきとは違う、本当に落ち着いた心で今の自分を見つめ始めていた。 「あの、良かったらこれ使ってください」  さっきの店員が濡れたおしぼりを渡してきた。 「え?」 「……泣いてますよ」  言われ慌てて自分の顔に触れれば、濡れた感触がそこにあった。  泣きそうだと思ってはいたが、泣いている自分に気付かないほどだとは想像もしていなかった。 「あ……すみません」  慌てて差し出されたおしぼりを顔に当てる。  なんで泣いているのか自分でもわからないまま、次から次へと零れ出てくる涙を熱いくらいのタオル地に染み込ませていく。

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