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第4話-1

 隆則が辞表を提出した瞬間、社内は上を下への大騒ぎとなった。  直前までやっていた仕事のメンバーが全員集められ原因究明で誰がどう負担をかけたかを聴収される事態にまで発展した。複数のメンバーからの証言で営業担当と直属の上司がやり玉に上がったのは、当然と言えば当然だ。  難しいシステム開発はすべて隆則の手に委ねて乗り切った会社である。主力であるプログラマーが抜けるのはこの上ない大打撃だ。しかも隆則ほど文句を言わないプログラマーは少なく、会社としては彼ほど使い勝手の良い人材はいないし、コミュニケーション能力が多少低くてもそれを上回る能力で会社に貢献し続けてきた彼を喜んで手放すなど経営陣にはできるはずがなかった。  社長の怒号が鳴り響く中、上司と営業担当者が小さくなりながら頭を垂れている姿を見ても、勤務状況面・給与面すべてで改善を提示されても、一度折れてしまった心が元に戻ることはなかった。 「なんで俺が怒られなきゃなんねーんだよっ!」  トイレから自分の席に戻ろうとしたとき、フロアの一番隅にある給湯室から苛立った声が隆則の耳に飛び込んできた。男にしては少し高めの声は件の営業担当だろう。 (なんだあいつ、まだ社内にいるのかよ)  営業は朝のミーティングを終えると部長の方針で全員社内から放り出されるのが常で、就業間近まで帰ってくることはない。なのに、11時を前にして給湯室で喋っているのはさぼりかと呆れていると、叫びには続きがあった。 「アイツただのプログラマーじゃんか! SEでもないくせになんであんなに騒いでんだよ、所詮IT土方だろうがっ!」 (ああ、なるほど)  こいつは肩書だけでしか物を見ていないのか。偉い奴にはヘコヘコして見下した人間にはとことんまで偉そうにするタイプかと納得しながら、だから自分に対してあれほどまでの無茶を通してきたのかと納得した。  クライアントから直接ヒアリングして仕様をまとめシステムの全体設計から進行管理までを統括して行うSEよりも、与えられた仕様書のプログラミングだけを行うプログラマーの方が格が下なのは確かだ。 「お前バカか? 五十嵐さんがただのプログラマーじゃないっての、社内で知らない人いないんだぞ。プログラミングする時間がなくなるからってSEになるの蹴ってるだけだし」  他に誰かいるのだろう、営業を嗜めるために情報を与えているようだ。 「あの人の仕事で営業利益の三割は持ってるようなもんだからな、その人辞めさせちゃった責任はデカいぞー」  情報を与えるだけではなく失敗を揶揄するなと諭したいが、ここで隆則が顔を出せば相手もいたたまれないだろうと、そ知らぬふりで通り過ぎようとした。 「そんなこと誰も教えてくれなかった!」 「お前がバカみたいにプログラマー見下してるからだろー、ざまー」

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