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第4話-3

「……フリーでやる」  元々趣味でやり続けてきたプログラミングまで嫌いになったわけではないし、独り身の身軽な立場だから無駄遣いさえしなければ月に2~3件の依頼で充分に食べていけると試算し、フリーになる決意をした。 「だったら辞める五十嵐さんから可愛い後輩の俺のお願い聞いてくださいよ」  自分よりもずっと上背のある後輩が可愛いとは思わないが、頼まれると断れない性分でつい「なんだ」と言ってしまう。 「俺の依頼は最優先に引き受けてくださいっ! 無茶な仕様変更なんてしないですし五十嵐さんのスケジュール最優先にしますから!」 「お前、まだSEにもなってないだろ」 「来年にはなる予定なので。俺の持ち駒の一つになってくださいお願いします!」  どれだけ優秀なプログラマーを抱えているかもSEにとって大事なことだ。だが会社という枠の中にいるなら必要ないだろう。この会社にだってたくさんプログラマーがいるのだから、元先輩に頼らなくてもと思ってしまう。  人の感情を読み取るのに長けている後輩は瞬時に言葉を並べた。 「五十嵐さんが抜けた開発部は人材かっすかすになるの目に見えてます。俺レベルが10人育つまで難しい案件はある程度外部委託になるはずなんです。だから頼んます!」  なるほど、と会得した。むしろ、今までバランスが悪かった部分が露呈したともいえるだろう。隆則一人にかかる負荷が大きすぎて後進を充分に育てきれなかった指導不足を今後どう改善させるかが課題になるだろう。すぐにレベルアップなんてできないから、後輩の言うように、彼らが育つまで一部を外注しなければ今の受注量をこなすことはできないだろう。 (こいつ、いいSEになりそうだな)  自分が育てた後輩が、これからどう育つのか楽しみだが、近くでその成長が見れないのは残念でもあった。 「わかった。最優先かどうかはわからないが、困ったときはいつでも連絡しろ」 「ありがとうございます! 頼りにしてますから」 「……まさか辞めた直後に仕事寄越すのだけは勘弁だからな。少しは休ませてくれ」 「あー、じゃあ辞めた二週間後から解禁ということで」  元気よく答える後輩に苦笑して、了承の意味を込めて手をあげながら彼に背中を向け自分の自分のデスクのあるフロアへと入っていった。席に着けば、少し離れた場所から上司が恨みがましい目で見てくるが、気にしないで今抱えている仕事を終わらせていく。さすがに途中まで組んだシステムを放棄して会社を辞めるわけにはいかないし、今後運用するためのマニュアルの作成もある。個人的恨みを相手にする暇はなかった。  何よりも。

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