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第5話-1
仕事を早く終えた日、それでも終電での帰宅だが隆則は軽い足取りでシャッターが閉まってばかりの商店街を歩いた。また彼が居るのではないかと、ほんの少し期待をしながら。相変わらず薄暗い夜道を先日とは違い軽くハイになりながら闇の中で煌々とオレンジ色の灯りをともす店の前に着くと浮かれた気持ちが一気に沈んだ。
初めて会ったあの日の自分の醜態を思い出し、変な客がまた来たと思われたらどうしようと考え始めてしまった。
あの日の自分はどう考えたって変としか言いようがなかった。
宝くじを何度も券売機に押し込むし、味噌汁を飲んで号泣するし、普通ならドン引きするようなことばかりをしていたのだ。脳内をのぞき見されたらもっと変人に想われていたに違いない。幸いにしてこの世の中で人の心を読む能力を持つ人間は稀だから読まれることはないだろうが、それでも目の下にクマを作ったヒョロヒョロの中年男性が奇行を繰り返していたら、いい印象が残っているはずがない。
(会わないほうが良いのか……)
だが彼に会うために今日一日頑張って仕事を終わらせて帰ってきたんだと思うと、一目でいいから会いたいという欲求が出た。
(あれだ、ペットショップをつい覗くのと同じ心理だ、うん)
癒しがそこにあると分かっているならつい求めてしまうのが人というもの。ただ見るだけで癒される存在は貴重だし、疲れている時ならば余計に癒しを求めてしまうものだ。
なにせ今社内の空気が悪いのだ。
いくらフリーでやっていくと言っても、一部の社員はライバル会社にヘッドハンティングされたのではないかと疑心暗鬼になり変に話しかけてくるし、他は隆則が辞表を出す原因を作った元上司と営業が他の社員からやり玉に挙げるから、当人たちが隆則にきつく当たってくる。特に無茶ばかりを通そうとする営業はあんな仕事くらいで辞めようとする隆則が悪いとあちらこちらで言って回っては返り討ちに遭いそのうっぷんを隆則で晴らすかのように無茶な仕事を振ってこようとする。それを新しい上司がブロックすれば、癇癪を起し隆則のデスクの近くで大暴れして仕事の邪魔をするからたまったもんじゃない。
ヒステリーと言ってもおかしくないほどに喚かれ仕事の手を止められるのが、一番ストレスだ。
今日も……と嫌な記憶を思い出して浮かれた気持ちは一気に霧散した。
(一応俺、客だから……)
そんな言い訳を心の中で繰り返しながら、ほんのひと時の癒しを求めて店内へと入っていった。
「ぃっらしゃいませー!」
あの元気のいい声が店内いっぱいに響き渡る。
(いた……)
それだけで地中深くまで沈み切った隆則の心が一気に浮上する。ひょこりと店の奥から顔を出したその姿を視界の端に捕らえてさらに気持ちが上向く。
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