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第6話-3
店がある場所まで行けばそこには張り紙があり、隆則はスマートフォンのライトをつけてそれを読み上げた。
「閉店?」
定番の閉店のお知らせがそこに記載され二週間も前に閉まったことが書かれていた。
「うそだろ……」
確かに隆則が店に行くたびに他の客の姿を見かけたことは一度もない。貸し切りなのをいいことに彼の姿を存分に堪能してきたから、隆則以外の深夜の客は少ないのかもしれない。もしかしていないから閉店なのだろうか……。
(俺の唯一の癒しはどうなるんだっ!)
せっかく仕事が終わって存分に彼を堪能しようと胸を膨らませたのに、これでは来た意味がないじゃないか。名前も知らない彼を鑑賞することが本当に唯一の楽しみであり癒しだったのに、もう会えないとなって涙が出そうなほど悔いた。
もっと頻繁に通えばよかった。
もっと注文数を増やせばよかった。
もっと早くに閉店を知っていれば、次の異動先を訊くこともできた。
後悔ばかりが隆則の頭を駆け巡る。そんなに後悔するくらいなら、会釈だけではなく何か話をすればよかったと思っても、共通話題がなにもないからなにを話していいかわからない。プログラミングや仕事なら会話が成立するが、いざ雑談となると自分の性癖を隠すために黙してしまう隆則は、何を喋ったらいいかわからない状況では言葉を選ぶのが難しくなってしまう。
訊きたいことはたくさんあっても、そんなことを聞いて自分がゲイだと知られたらと怖くなる。
自分に秘密があるから人に心が開けない。
コミュニケーション能力が高く自分の性癖をあけっぴろげにしている人間も多くいるが、元来小心者で人と接するのが苦手な隆則にはハードルが高かった。しかも見た目に自信が持てないし、秀でているものが何一つない劣等感から消極的だ。だからこそ、今まで恋人一人いた例がないのだが。
もう会えないのだから割り切ろう、ここでの癒しは終わったのだ。
今は殺伐として汚い部屋を綺麗にすることだけを考えよう……ついでにさっき行ったコンビニで夕食でも仕入れようとまた、フラフラと町を少し猫背で歩き始めた。
コートのポケットに手を突っ込まないと夜のビル風に体温が奪われていく。かじかんでいく指先を親指の腹で擦りながら亀のように首を縮こませながら帰路を進んでいくと、マンションから数件離れた小さなアパートの奥から強い光が灯っていた。
何があるのかと近づこうとして足が止まった。
「え……火事?」
奥の窓からありえない炎をかたどる光が見える。
うそだろ……と思いながら、慌てて持っていたスマートフォンを取り出し、電話をかけた。
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