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第6話-5
喋るたびに喉の奥が痛みを訴える。
「どうしてこんな時間にご飯なんですか?」
「仕事が終わったから……」
職務質問すら受けたことがない隆則は強い口調を繰り返す警察の前でどんどんと委縮する。手にぶら下げているコンビニのビニール袋を警察がちらりと見る。その中のゴミ袋を確認して警察が嫌な表情をした。
「このゴミ袋はなんですか?」
質問だらけだ。ゴミ袋を買ったのは掃除をするためで、山のように転がっている弁当のプラスチック容器を捨てるためだと訴えても、なぜこの時間にわざわざゴミ袋を買いに行くのかと詰められる。
「だから、仕事が終わって、部屋の掃除をしようと……」
「この時間にですか?」
「はい……」
いけないのだろうか。だが隆則の部屋はごみが散乱しすぎている。あまりに汚すぎてその中に自分が生活していたのですら今になっては信じられないのだ。綺麗好きではないが、ゴミに埋もれたほうが安心できるというわけでもないし、生ごみから生じる虫の存在を想像するだけで背筋が凍る。だから一秒でも早く掃除をしたいと思って何が悪いのだろうか。それでちょっと外出ついでに癒しを存分に瞼に焼き付けようとして、本当になにが悪いのだろうか。
「本当に仕事をしていたんですか?」
「ほんとです……取引先に確認してもらえばわかります、システム納品したばっかりなんで」
しっかり喋っているつもりでも、隆則の声は次第に涙声に変わっていった。
質問を受けている間も消防隊員は消火に必死になり、逃げ遅れた人を吸湿したりしている。それをやじ馬している人々の輪から少し離れた場所で警察と話しながらどんどんと縮こまっていく隆則の姿に、周囲の人々は犯人はこいつなのかと興味深げに視線を送ってくる。
人の視線に敏感な隆則は余計に委縮して言葉が小さくなっていった。
「取引先の名前は?」
「…………サーシング株式会社です」
皆が移籍先かと疑ったあの会社からも当然のように隆則へ依頼があった。今まで気に食わないインテリ社長から代わり、実直な人間が社長になっていて、電話口での依頼がとても丁寧だったから致し方なしに引き受けた仕事だ。前に勤めていた会社の面々には知られたくなくてあまり口外していなかったが、よやここでその社名を出すとは思いもよらなかった。
「サーシング株式会社ね……聞いたことがないな」
そりゃ、システム会社の名前を一般人が耳にすることの方が稀だろう。
むしろ知っているほうが意外だ。
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