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第6話-7
矢継ぎ早の言葉に、周囲の警察の表情が難しい物へと変わっていった。
「通報者の指名住所聞く前にもう犯人扱いってさ、なんなの? まずは変な態度を取ったこと詫びるのが先じゃない? しかも自分の名前や階級聞いても言わねーのって卑怯だよな」
堂々とした物言いに自分はかばわれてるんだと分かって、ホッとした途端にずっと眦にしがみついていた涙がポロリと零れ落ちてきた。ここ数年、誰かに守られた記憶なんてない。むしろ陰口を言われるほうが多いだろう。会社ですら仕事ができるから大っぴらには言ってこないが付き合いの悪い隆則のことを悪しざまに言っているのは知っている。そして周囲も助けてくれることなどなく、同調して色々言っているのも。
フリーになってそんな煩わしさから解放された今となって初めて、こんな状況でかばってもらえるなんて思ってもみなかった。不意打ちだ。
一度零れてしまったら次から次へと涙が溢れてくる。ついでとばかりに鼻水まで出てきてそれを啜れば立派な泣き声だ。
「ほら、警察が酷いことしたからこの人泣いちゃったじゃんか。ちゃんと謝らないとダメだろ」
警察の輪の中から一人、正の低い壮年の男性が出てきた。制服を身に纏っているが雰囲気は随分と穏やかだ。
「それはうちの若いのが申し訳ないことをしてしまったようで。本当にすみませんね。ほら、お前も謝れ」
「……すみませんでした」
「本当に申し訳ないです。こいつが先走りました」
上司なのだろう、壮年の男性に頭を押さえつけられた警官が深く頭を下げる。その顔がどうなっているのかは床にヘタレ混んでいる隆則にしかわからないが、申し訳ないというよりは不満が溢れかえった表情だ。自分が怒られるなど思ってもいないという表れなのだろう。そして目が合った隆則を恨みがましく睨みつけてくる。他人の悪意に敏感な隆則は思わず身体を縮めた。
「俺じゃなくてこの人にですよ。それに、なんか怯えてますよ。その警官本当に悪いと思ってるんですか? やっぱり名前と階級を教えてよ、警察って市民から要求されたら答えるのが義務ですよね」
「まあ、そうなんですがね。後でみっちり教育しますのでここは一つ、私の顔を免じてこれでおしまいという形にしてもらえないでしょうかね」
「なぜ貴方の顔に免じる必要があるんですか? 今下げてる顔でこの人を睨みつけてるんじゃないんですか? じゃなきゃここまで怯えないよ」
「なんだと。お前、まさかそんなことをしてないだろうな」
やばっという表情で慌てて眉尻を下げたが、どう考えたって作っているとしか思えない。
(だめだ……人間怖い)
すぐに申し訳なさそうな表情を作り出し、それを周囲に見せつけることのできる若い警官がどこか化け物のように感じる。無意識にずり下がり、自分をかばってくれている人の足にぶつかる。
「あ……」
「大丈夫ですか?」
見上げればそこにいたのは、あの牛丼屋の彼だ。パジャマ代わりのトレーナーだけの寒そうな姿でそこに立っており、素足のままで足元を冬の冷たい風が吹き抜けていく。ジワリジワリと冷気が上がってくるというのに、平然としているのに驚く。
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