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第6話-8
「あ……りがと……」
たった数言なのに、寒さと恐怖とで萎んだ心が少しだけ温かくなるのを感じた。
(やっぱり、カッコイイな)
こんななんてことのない姿でも様になる人間はそういないだろう。しかも情けない姿の自分を助けてくれた、それだけで元のカッコよさと相まってより一層素敵に見える。
(いい男はやることもカッコイイんだな)
反して己の情けなさと言ったら……警察にきつく言われたからと言って泣きそうになっている体たらくぶりだ。とてもじゃないが30歳を超えている人間の姿ではないだろう。
しゃがみこんでいたアスファルトの冷たさに震えこのままじゃだめだと立ち上がろうとしたが上手くできずにいると、あの理想の腕が伸びてきた。
「捕まってください」
「……ど、も」
握った手から伝わってくる彼の体温が、熱い。
しかもまだもたもたしてうまく立ち上がれない隆則を引っ張り起こす力の強さに胸がときめく。助けてもらってさらにこんな優しくしてもらったら、絶対に勘違いを起こす。自分が同性愛者というマイノリティだからではない、人間誰だってこんな場面で優しくされたら自分にだけかもと期待してしまう。これが恋愛対象だったらなおのことだ。
(でも勘違いだから。そんなに都合よくゲイは転がってないぞ……だから落ちつけ心音!)
伊達にゲイとして年を取っているわけではない。期待するだけ悲しいということは十二分に学習済みだ。ゲイにすらモテない自分がノーマルな彼にモテるはずがない。ただ顔見知りが困っているから助けただけに過ぎない。
そのことを胸に深く刻みつけながら奥歯を強く噛んだ。
少しでも気を許して、何度も失敗してきた過去が隆則の頭を駆け抜けていく。
同性は恋愛対象ではない大多数の人間からしたら、こんな触れ合いはきっと当たり前のことで特に意識するものではない、はずだ。だからこんなことでいちいちときめく必要なんかない。
「助けてくれてありがとうございます」
なんとか震えながら俯き言葉を並べる。
「大したことしてませんから」
しゃっきりと隆則を立たせようと両腕を掴んでいた手がブルリと震えた。
「あっあの、もう帰ったほうが良いですよ、こんな薄着じゃ風邪ひく」
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