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第7話-1

「あの……もしかしてこれ……」  玄関の扉を開いたその瞬間をのちに何度思い出しても死にたくなるのだが、その時の隆則はそこまで頭が回らなかったとしか言いようがない。  ドアの向こうに広がっているのは散乱極まりない廊下。  そして知っている、ここはまだいい方だということを。廊下の向こうがもっとすさまじいことになっているのは、この部屋の住人である隆則が一番理解している。  とてもではないが人を呼べるような状況ではないのに、どうして招いてしまったのだろうと後悔したところでどうしようもなかった。 「泥棒に入られたんじゃっ! け、警察呼びましょう!」 「あ、いや、それは絶対に違う! 違うんです!」 「でもこんな……」  泥棒が入ったと思ってしまうくらいに汚い、ことくらい嫌と言うほど分かっている。だからこそ、コンビニの袋の中にゴミ袋が入っているのだ。しかも廊下に散乱してあるのは服だけだが、リビングや仕事部屋兼寝室はもう目も当てられない状況だ。唯一、綺麗なのは物置代わりにしている六畳間だけ。それだって滅多に扉を開けないからどんな状況か記憶にないだけで、ここ以上に汚い可能性だってある。  片づけが幼少期から苦手だった隆則は、とにかく綺麗にしようと、ゴミ袋の束を取り出すとそれを廊下に広げ一枚取り出して散乱した服をそこに突っ込んだ。 「気にしないで上がって」  だが、上がった先もゴミ屋敷。とてもじゃないが見せられないけれど、外気とそれほど変わらない室温の廊下で待たせることもできない。終わるのに何時間かかるかわからないのだから。 (なんで俺ってこうなんだ……)  仕事なら計画的にとかできるが、気が抜けるとどうしてもダメ人間っぷりが出てしまう。出した服は片づけられないし、洗濯物も干すまでは問題ないがその後の作業が面倒で部屋に散らばしてしまう。そして最後には脱いだ服なのか洗った服なのかわからなくなって全部を洗濯機に投げ込んで一からやり直し。生活無能力者である自覚は重々あったはずなのに、家族といると一人だけ異様な自分に堪えかねてそこから飛び出す無鉄砲ぶりは昔も今も変わらない。  性癖の部分である程度慎重になりはしたが、それだって後付けで元来の駄目っぷりが改善されることはない。  いそいそと服をゴミ袋に詰め込んでいく姿に、彼は何か言いたげで後ろをついて歩いているが、隆則は気付かない。こういうところもダメなんだと自覚しないまま、とにかく今は少しでも床が見える状況にしようと慌てて作業をする。 「あの……」 「良かったらソファに座って……って、ここも服だらけだっ」  洗濯したのか放り投げたのかわからない洗濯物をこれもと袋に詰め込もうとする隆則を大きな手が制した。 「よかったら手伝います」 「いや……それは申し訳ないよ……」

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