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第7話-3

 冬の遅い太陽がようやく登り始める合図の白い光を大地に届け始めたころ、ようやく床が綺麗になり、山のように積み上げられた服を残すのみとなった。 「ここは洗濯何時からできるんですか?」 「えっ、そんな決まりがあるの?」  集合住宅でお約束の家電を回す時間がいつなのかも知らない隆則に、彼は苦笑するとともに「一般的には朝七時からですね」と朗らかに答えた。 「そうか……知らなかった」  ほとんど家にいなかったし、入居の際の自治会の決め事の用紙にも目を通していない自分がいけないのは重々理解しているが、集合住宅というのはそういった面倒な決まりごとがあるのか。 (こんなことなら一軒家を買えばよかった)  買ったところで隆則では管理しきれないから集合住宅にしたのを忘れて、不自由な点を恨みがましく思ってしまう。  だが、一軒家なんかにしたらとてもじゃないが都内で住居を構えることもできないし、彼に会えなかったんだよなと思いながら、一度レターケースに入れておいた書類を分けていく。 「あ、あった。自治会マニュアル」  分厚い書類を無理矢理ホチキスで留めた約款が出てきた。それを開けば彼の言うように掃除機や洗濯機の使用は朝七時からとなっている。あと一時間は動かせないということだ。  しかも、洗濯物の量が半端なくて、一回で全部は無理だし、干すスペースもないだろう。  山のように盛り上がった服の山は一朝一夕では片付かないような気がしてきた。 「これも全部……捨てるか」 「えっ、捨ててしまうんですか?」 「でもこのままじゃ絶対に終わらない……」  どんなに洗濯機を回しても、ベランダいっぱいに干しても片付くイメージが浮かばない。何より、この服が入るタンスがない。  そして、片づける自分の姿すらそこにはないのだから、一度データ消去と同じように全部消してしまえと思うのは、長らくパソコン仕事に携わってきたからだろう。不要なものは消してしまえ。  全部をゴミ袋に詰め込もうとした隆則に、彼が慌ててその手を押さえてきた。 「うっ……」  掃除で身体が温まったのか、その手はとても熱く思わず身体がびくっとなった。 (いま……今、掴んできた!)  カウンターの向こうにいたはずの彼が今、手を掴めるくらい近くにいる事実に、瞬時で隆則は赤面してしまう。だってこんな風に自分に触れた人間なんて家族かゲイ向けデリヘルボーイだけだ。その手を捕まれている事実にうるさいくらいに心音が鼓膜を奮わせていく。

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