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第7話-6

「すみません、俺が変なことを言っちゃったから……」 「君のせいじゃないよ……全く掃除しなかった俺が悪いから……」  本当だ。今までこの家に手をかけた記憶がない。移り住んでからというもの、まともな掃除をした記憶がない。通販で買った掃除機がどこにしまってあるのかすら思い出せないし、今だって全自動掃除機はどこに行っているのかすらわからない。本当に今まで生きて来られたのが不思議だ。 「これが終わったら食事にしましょう。俺、作るの得意なんで」 「……でも……」  ゼロから何かを生み出せる人間なんて存在しない。食事を作るのだって何かがなければできないだろう……隆則の家にある大きな冷蔵庫にしまわれているものと言えば、お茶と水のペットボトルだけだ。 「申し訳ないよ。君……えっと水谷君さえ良ければファミレスに行こう」  そう遠く離れていないところにあるはずのファミレスでの朝食を提案すれば、少し困った顔をしながらワイシャツの襟に洗剤を塗り込んでいった。 「俺……金ないんで……」 「そんなことは気にしなくていいから、ごちそうするよ……ファミレスだけど」 「もったいないです」 「そんなことないから……それに……冷蔵庫には……なにもないんだ」  遥人がなかなか折れないから、とうとう隆則はその理由を口にした。大きく、いかにもファミリー向けの大型冷蔵庫は電源入れっぱなしの飾りでしかないことを。  独身者にありがちな干からびたハムも中途半端な卵も、成人なら当然置いてあるだろうアルコール類すらない。本当に2リットルのペットボトルが二本あるだけ。食に興味がないのではない、自分で作れないから食材を前にしても動くことができず、すぐに食べられるものを買うしかないのだ。だったらなぜあんなにも大きな冷蔵庫を買ったかと言えば、衝動買いとしか言いようがない。徹夜明けの仕事帰りに家電量販店によったのが運のツキだ。  結婚する相手もいないどころか恋人すらできた例がないのだから、あんな大きな冷蔵庫が役に立つと気が来ることはない。単身者専用の小さい物でも充分に賄ったはずである。  電気代ばかりが無駄にかかるだろうが、そこまでの経済観念すらない。  さらに言ってしまえば、日本の家庭に必ずあるべき調理家電、炊飯器すらこの部屋にはないのである。米を洗って水を入れスイッチを押すだけで美味しいご飯を炊き上げてくれるあの素晴らしい機械ですら使いこなせず何回か壊している隆則である。一番安全に来客の腹を満たす方法と言えばもう、外食しかなかった。  金で解決している自覚はある。あるが、それ以外の方法がないのが正しいのだ。 「それ終わったらどうせ待つ時間になるんだから、朝ご飯を食べに行こう」  買ったはずの弁当の存在を隆則はすでに忘れていた。

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