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第7話-7

「すみません、ありがとうございます」 「お礼とか必要ないから……水谷君にお礼がしたいのは俺の方だから」  棚のすべての段を拭き終え、汚れたぞうきんをどうしようかと手に持ったまま突っ立っていれば、すべてのワイシャツの襟に洗剤を付け終え洗濯機を回した遥人がそれを自然な仕草で取り上げ、洗面台に軽く埃を落とす。それを拾い集めてゴミ箱に捨てた後にそこで手洗いを始めた。 「あ……りがと……」 「すぐに洗ったほうが雑巾はいいんですよ」  それはすべての洗濯物に言えることだろう。  自分の無能っぷりを恥じながら小さくなっている隆則はその言葉を深く胸に刻もうとした。雑巾はすぐに洗ったほうが良い、と。 「あ、じゃあ行こうか……っとそうだ、その前に着替え……なにかあるかな?」  男性にしては少し小柄で四捨五入してようやく170cmになる隆則の持ち物には大柄な遥人が身に着けられるものはそうそうないが、それでもトレーナー姿の彼を連れ回すのは申し訳なかった。  コートが吊るされているクローゼットを開き、がさがさと探していく。 「これとか、どうかな?」  Sサイズばかりの同じようなコートの中から、いつ買ったのかも思い出せない一番大きい物を取り出す。登山用の厳つく重いコートだ。なぜこんなのを買ったのか本当に思い出せないがタンスの肥やしなのだからいいかと手渡すが、袖を通した遥人にはやはり小さいようだ。肩はなんとか収まっても長い腕が手首まで出てしまい外に出るには寒そうだ。 「ごめん……他の服ないかな?」  もう一度クローゼットを漁ろうとした隆則を遥人が慌てて制した。 「大丈夫です、充分ですよ。俺、元々ぴったりな服って滅多に見つからないから」 「でもこれだと寒いから。朝は冷えるし……」  だがどれだけ探しても体格差は歴然としており、隆則の持っている服では何一つ賄うことはできない。 (俺がもっと男らしい体型だったら……)  貧相極まりない肉体が恨めしくなる。少しでも横幅があればもう少し大きな服を手に入れていただろうが、如何せん不摂生な生活がたたって体重だって50キロ前半だ。市販のSサイズの服ですら余ってしまう。 「本当に気にしないでください……あの、腹が減ったので行きませんか?」 「うん……」  本当に役に立たないな自分と落ち込みながら彼に促され玄関へと向かう。  そこで素足のまま出ようとする彼を慌てて引き留めた。 「何か履くもの……っ」

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